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「食べ続けるために魚を守る」世界へ 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」

 去る3月、英「エコノミスト」誌を発行するエコノミスト・グループが主催するワールド・オーシャン・サミットが、東京で初めて開催された。

 このサミットは、持続可能な海洋経済の実現と海洋環境の向上を目指すための国際会議として2012年に始まったもので、今年で12回目を数える。昨年の開催国ポルトガルから日本がバトンを受け取り、各国の政策立案者、科学者、ビジネスリーダー、国際機関などさまざまな海のキーパーソンが世界中から集結する場となった。

 シェフチームであるシェフスフォーザブルーは、そのサミットのサイドイベントとして、島嶼国(とうしょこく)の大統領や国際機関のリーダーの方々を招いての晩餐(さん)会を企画運営させていただくことになった。私たちが毎夏に開催してきた学生向け人材育成プログラム、ブルーキャンプに参加した学生たちと共に、「日本の魚食文化の素晴らしさと海の現状」を伝えるべきメインテーマとして、半年ほどかけてディナーの内容を組み立てた。

 お料理は、京都での修業時、国賓クラスの晩餐会を何度も担当してきた林亮平シェフ(日本料理店「てのしま」)を中心に、万全の体制。学生たちは、それまでの学びに加えてさらにリサーチやフィールドワークを重ね、メニュー編纂(へんさん)やお土産用の冊子制作に取り組んだ。彼らの生き生きとしたプレゼンテーションも素晴らしく、和やかで笑顔あふれるディナーとなった。

 この会で驚いたのは、「食べ続けるために魚を守る」という私たちの考え方に対し、意外なほど大きな反響があったこと。これは、守るためには「獲(と)らない」「食べない」が一番良い、という考え方が欧米の主流である中で、かなり新鮮に映ったようだ。「とてもポジティブなメッセージ」「生活者を巻き込みやすい」と大いに評価いただき、「世界の海洋教育の中で取り入れるべき視点」といった身に余るお言葉も頂いた。

 長い歴史の中で育んだ魚との深い関係性があるからこそ、また洗練された魚食文化を持つ日本だからこそ、「食べ続ける」ことを諦めたくない。そのためには、豊かで健やかな海であり続けてもらう必要があるのだ。一度傷ついてしまった海を回復させ、これからの未来も共に生きるための方法を、チームで今後も考え続けたいと思う。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.22からの転載】