一堂に会す「祈りと美」の特別展 奈良博 吉野・大峯の名宝160点余

 奈良国立博物館で開催中の特別展「神仏の山 吉野・大峯 ―蔵王権現に捧げた祈りと美―」の会期が最終盤を迎えた。1000年以上の昔から日本人の心のよりどころとなってきた信仰世界の名宝が一堂に会するまたとない機会が多くの人の心をとらえている。

奈良国立博物館で開催中の特別展「神仏の山 吉野・大峯 ―蔵王権現に捧げた祈りと美―」

 会場に足を踏み入れてまず出会うのは、古来の人々が特別な力や悟りを得ようと身を投じてきた、霊山「金峯山」の仏像や信仰世界を物語る品々。

 山岳信仰と修験道の開祖とされる役行者と従者の鬼を表した吉水神社の「役行者倚像と二鬼坐像」(室町時代)、役行者の超人的エピソードが記された国宝の「日本霊異記 上巻」(平安時代、前期展示のため終了)らにいざなわれながら進むと、金峯山の一角をなす大峯山(山上ケ岳、標高1719メートル)の山頂・大峯山寺の蔵王権現立像(平安~鎌倉時代)がずらりと並ぶ、厳かな異空間が広がる。30体近くが、車両が入れない狭く険しい山道を一体一体背負われ、山から下りてきた。

蔵王権現立像 平安時代(12世紀) 奈良 大峯山寺

 大峯山は宗教上の理由から女人禁制。令和の今、女性が目にすることができる機会がつくられたのも、本展の大きな魅力に違いない。

 今回の大きな目玉のひとつが、藤原道長自筆の国宝「紺紙金字経」(平安時代)だ。金峯山詣でに訪れた41歳の藤原道長が埋納した自筆の写経で、吉野町の金峯山寺で大量に見つかったものが、3年にわたる修理の後、初公開されている。法華経、阿弥陀経が丁寧に金泥で書かれた和紙の藍色は、時空を超えて鮮やか。保存修理の過程を記録した動画や紺紙金字経が収められていた経筒(国宝、金峯神社)も、ともに見ることができる。

 

(左)国宝 紺紙金字阿弥陀経(金峯山経塚出土)(部分) 藤原道長筆 平安時代 寛弘4年(1007)奈良 金峯山寺【展示期間:5月12日~24日】、(右)国宝 藤原道長経筒 平安時代 寛弘4年(1007) 奈良 金峯神社

 金峯山寺の秘仏本尊で、慈悲と寛容を表す青の体色が知られる高さ7メートルの蔵王権現像は、VR映像で登場。現地の拝観では、巨大さゆえに目の前に足が来てしまい、お顔を遠くに見上げることになるが、VRでは目線の高さに近い感覚で向き合え、忿怒(ふんぬ)の形相に射すくめられるようだ。じかに目にすることができない上方の細部も観察でき、現代までに培われた人間の技術が、祈りの世界をより近いものにしている。

 吉野と言えば、桜も人々の心を魅了してきた。重要文化財「吉野花見図屏風」(安土桃山時代、細見美術館)は、天下を統一した豊臣秀吉が主催した盛大な宴の様子を残したもの。宴では、花見に訪れた秀吉の前に蔵王権現が現れ、世の泰平を寿ぐという内容の能「吉野詣」を秀吉本人が演じたと伝わる。屏風に描かれた、金峯山寺の蔵王堂に向かう秀吉や能舞台、準備をする人々の様子は、華やかで楽しげだ。

重要文化財 吉野花見図屏風 左隻 安土桃山時代(16世紀) 京都 細見美術館【後期展示】

 最後の展示は、文楽「義経千本桜」の舞台をバックに、額の上の天冠台に桜をかたどった飾りのついた蔵王権現立像(鎌倉時代)が登場。特別展のため、米国のロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)から里帰りした。吉野・大峯から生まれ、国をも超えた祈りの造形の美しさを感じながら、展示の余韻に浸ることができる。

 総数160点余りの展示品から聖地の全貌に迫る特別展「神仏の山 吉野・大峯 ―蔵王権現に捧げた祈りと美―」は、6月7日まで。5月17日までに8万7641人が訪れた。