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超大作『非常宣言』は完全復活ののろし 話題作が続々公開の韓国映画をチェック!

 日韓関係の悪化とコロナの影響でしばらく減っていた日本での韓国映画の公開が、ようやく元に戻りつつある。しかも新年早々に公開される『非常宣言』は、ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨンほか韓国を代表する豪華スターが一堂に会した超大作だけに、完全復活を印象付ける。そこで、この冬日本で見られる新作を中心に韓国映画にスポットを当ててみたい。

映画先進国=韓国

非常宣言 (C)2022 SHOWBOX AND MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.

 サッカーのワールドカップで、韓国は日本と同じベスト16に入ったものの「日本に差をつけられている」という韓国代表選手の発言などが報じられたが、映画界に関していえば、全く逆。日本は韓国に大きく水をあけられている。韓国は今や映画先進国なのだ。

 日本サッカー協会が20年をかけて基盤強化に取り組んできたように、韓国では映画を輸出の目玉にすべく政府主導で盛り上げてきた。もちろん国内の市場規模だけでまかなえる日本とは事情が異なるとはいえ、その成果が実を結び、隆盛を誇る現状はうらやましい限りである。

 では、政府の主導とは、どういうことだろうか。韓国には、フランスのCNCを見習って作られた「韓国映画振興委員会(KOFIC)」が、国家行政機関の中にある。財源は税金ではなく、映画チケット代の3%が映画発展基金として吸い上げられる仕組みを利用して運営されている。

 このKOFICが、興行成績に応じて配当金を決める映画ファンドによって製作を支援するばかりか、人材の育成や海外作品のロケーション誘致、さらには撮影現場における労働環境の改善やハラスメント対策なども行っているのだ。

 また、韓国では国産映画の一定期間の上映が、スクリーンクォーター制で義務付けられている。

 そして、それ以上に大きいのが、釜山国際映画祭の存在。東京国際映画祭より後発であるにもかかわらず、アジアきっての映画祭として知られ、とりわけ作り手たちの交流の場として重要な役割を担っている。

 実際、『ベイビー・ブローカー』の是枝裕和や行定勲、石井裕也、入江悠といった日本の一流の監督たちが韓国映画を撮るきっかけとなった。昨年度の賞レースをにぎわした『ドライブ・マイ・カー』もコロナがなければ韓国で撮影されるはずだった。

 要するに、韓国映画界は基盤がしっかりしていて、エリートが集まるため、人材も豊富。何より、海外で見られることも意識して映画を作っているのだ。しかも、日本に輸入される時点で厳選されるので、面白くないわけがない。では、ここからは、間もなく日本公開される作品を具体的に見ていきたい。

注目の新作がめじろ押し!

別れる決心 (C)2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

 1月6日から公開される『非常宣言』は、『パラサイト 半地下の家族』『ベイビー・ブローカー』のソン・ガンホが主演。コロナ直前の2020年1月に全国公開されて大ヒットした『パラサイト』とどうしても比較したくなる。

 とはいえ、こちらは豪華キャストが集結したブロックバスター映画なので、タイプは全く異なる。旅客機内で発生したバイオテロ事件を解決しようと奮闘する人たちの群像を描く航空パニック超大作だ。

 アカデミー賞の作品賞やカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した『パラサイト』と比べると、芸術性よりも娯楽性の方が勝っているが、人間の業や、生きる意味を問いかけるメッセージ性もしっかりあって、バランスがいい。韓国映画の水準の高さ、世界をにらんだ視野の広さを象徴する一本といえるだろう。

 国際レベルという意味では、『パラサイト』のポン・ジュノに比肩する国際派監督パク・チャヌク(『オールド・ボーイ』『イノセント・ガーデン』)の新作『別れる決心』が、2月17日から公開される。

 優秀で清廉な刑事と、容疑者となった未亡人によるメロドラマ。パク・チャヌクにしてはショッキングな描写は控えめだが、内容は十分にショッキングで、彼らしいけれん味たっぷりの演出や編集がさえわたる。

 昨年のカンヌで監督賞に輝き、今年のアカデミー賞の国際長編映画賞でショートリスト(15候補)入りを果たしている。

 さらに『パラサイト』絡みでは、主人公一家の長女を演じたパク・ソダム主演の『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』が1月20日から公開に。タイトル通り“ドクターX”のように失敗しない天才ドライバーの運び屋を演じる。

 注目したいのは、ソン・ガンホの遺伝子を受け継ぐパク・ソダムの一重まぶたではない。ハリウッド大作に引けを取らないカーチェイス・シーンだ。道路や市街地を封鎖しなければ撮影不可能なシーンも多く、ここでもKOFICの存在の大きさが感じられる。

 同じく2月10日公開の『呪呪呪/死者をあやつるもの』にも、大掛かりなカーチェイス・シーンがある。

 『新感染 ファイナル・エクスプレス』やNetflixドラマ「キングダム」などで世界的に注目される“Kゾンビ”ものだが、そこに“呪い”というホラーの別の人気ジャンルを融合させて新味を持たせている。

 Kゾンビといえば、動きの速いゾンビが特徴で、呪術によってゾンビ軍団が一糸乱れぬアクションを繰り広げるのだ。

 加えて、ゾンビが自動車だって運転し、都会のど真ん中で大規模に展開されるカーチェイスにも驚かされる。原作・脚本を手掛けたのは、『新感染』のヨン・サンホ。監督最新作となるNetflix映画『JUNG_E/ジョンイ』も1月に配信されるので、そちらも楽しみだ。

 韓国映画で定番となっている裏社会の抗争を扱った“韓国ノワール”では、『野獣の血』が同じく1月20日公開。

 港の利権争いに振り回されるヤクザたちを描いて、『ゴッドファーザー』の影響を色濃く感じさせる。

 ほかにも、豊臣秀吉の朝鮮出兵によって起きた閑山島海戦を題材にした歴史スペクタクル『ハンサン -龍の出現-』(3月17日公開)や、“国民俳優”アン・ソンギ主演のヒューマンドラマ『よりそう花ゝ』(1月13日公開)、ラブコメ系では『ジャンルだけロマンス』『パラム パラム パラム』(ともに2月3日公開)などが見られる。

 猫好きには、『子猫をお願い』で知られるチョン・ジェウン監督が、取り壊される団地で暮らす250匹の猫のお引っ越し作戦を追ったドキュメンタリー『猫たちのアパートメント』(公開中)がお薦め。

 俳優に関しては、昨年大ブレークを果たしたソン・ソックも「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」のパク・ウンビンも、きっかけは映画ではなくドラマだったので、ここでは割愛したい。質が高く豊富なラインアップを誇る韓国映画に、韓流ファンや映画好き以外もぜひ注目してほしい。

 (外山真也)