『1秒先の彼』(7月7日公開)
京都の郵便局の窓口で働くハジメ(岡田将生)は、何をするにも人よりワンテンポ早い。ある日、彼は路上ミュージシャンの桜子(福室莉音)と出会い、彼女の歌声に引かれて恋に落ちる。
どうにか花火大会でのデートの約束を取りつけたものの、目覚めるとなぜか翌日になっていた。やがてハジメは、郵便局に毎日やって来るワンテンポ遅い大学生のレイカ(清原果耶)が“消えた1日”の鍵を握っていることを知る。
監督・山下敦弘と脚本・宮藤官九郎で、台湾映画『1秒先の彼女』(20)をリメークした。『1秒先の彼女』は、映画技法の、同じシーンの別撮りや、テーク(撮り直し)を利用して、何事も人よりワンテンポ早い女の消えたバレンタインをめぐる物語と、ワンテンポ遅い男によるアナザーストーリーを展開させるという、記憶と時間にまつわるちょっとシュールな新機軸のラブコメディーだった。
見た際に、日本かハリウッドでリメークされるのではと思ったが、その通りになった。ただ、そのままリメークしたのでは芸がないということで、舞台を京都にし、男女のキャラクター設定を逆転させている。
また、同じく時間SFファンタジーの『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16)も京都を舞台にすることで、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していたが、この映画も桜子が歌う「女ひとり」「なのにあなたは京都へゆくの」も含めて、どこか70年代を感じさせるところがあった。そこは山下監督の好みで、懐かしさの中に今風のギャグを入れてくるところはクドカンの好みか。その点では、今回の共同作業は面白かった。
ただ、岡田も清原も頑張ってはいるが、どうしてもオリジナルのリー・ペイユーとリウ・グァンティンの素朴な魅力と見比べてしまうところがあった。変換したストーリーにも無理が感じられ(もともと無理がある設定なのだが…)、見終わった後でオリジナルが見たくなった。
ただ、そう感じるのは、自分が『1秒先の彼女』に好印象を持っているせいなのかもしれない。例えば、先に公開されたトム・ハンクス主演の『オットーという男』はなかなかいいと思ったが、それはオリジナルの『幸せなひとりぼっち』(15)を見ていないからで、見ていたらあの映画にも納得がいかなかったのだろうかとも思う。リメークものはなかなか難しい。