未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。豊田歯科医院院長・豊田裕章さんが運動時や夏場の水分補給について考える。
私が、1970年代後半、大学テニス部時代に最新の水分補給アイテムとして出会ったのが、アメリカからやってきたスポーツドリンクだった。高校まで「練習中はバテるから水を飲むな」と指導を受けてきたので、練習中にスポーツドリンクを飲むことはとても新鮮だった。
国産のスポーツドリンクも1980年に発売され、この飲料が水分補給に適した製品なのだと信じて夏の練習や試合時に利用していた。ただ、甘すぎる味、後味の粘っこさが好きではなかった。疑問を感じながらも、これが最新のアメリカのスポーツ医学に基づいた適切なやり方だと思っていた。ところがそうではなかったのだ。
その後、運命を変えてくれた本に出会う。子どもの食生活のことを勉強していた時に書店で見つけた2000年発行の『子どもの食事』(中央公論新社 刊)だ。著者は、小児科医で神戸大学臨床教授もされていた根岸宏邦先生である。
この本では、脱水症での水分・電解質補給には「ORS=経口補水液」が最適であると紹介されていた。脱水症状がある場合の対策にはブドウ糖2%が最適なこと。それに対して、市販のスポーツドリンクは糖質4~7%と多すぎで、逆に塩分は足りないので体への吸収が遅くなる、などさまざまな問題があることを知り、驚くばかりだった。
猛暑での運動時、最悪の選択はがまんして何も飲まないことである。命を守るためには水分をとること。何も飲まないくらいなら、スポーツドリンクでも飲む方がまだましだ。しかし、最適かつ必要なのはスポーツドリンクではなく、経口補水液を脱水状況に応じて適切に飲むことである。
運動時や夏場に、水代わりにスポーツドリンクを飲むとむし歯が多発する。しかも、肥満や血糖値の乱高下、糖尿病、低ナトリウム血症、ビタミンB1欠乏、食生活の内容が悪くなるなど、さまざまなリスクが高まる。くれぐれも注意してほしい。
スポーツドリンクを飲むくらいなら、経口補水液を水で2倍に薄めて飲む方が、はるかに有効で副作用の心配も少ない。スポーツドリンクでは脱水症対策が不十分ゆえ、後になって経口補水液の製品が販売されたのである。日本で市販の経口補水液が全国販売されたのは、2004年である。
最近は、熱中症対策には経口補水液が最適であることが一般の方々に知られるようになってきた。しかし、スポーツドリンクはむし歯のリスクはあるが日常の水分補給にはいい、という誤った情報がまだまだ見られる。スポーツドリンクは、体への吸収が遅く、飲み過ぎによるいろいろな悪影響もあり、熱中症・脱水症対策には適さない飲み物であることを理解していただきたい。
経口補水液は、次の方法で手作りできる。①水500mlに、②ブドウ糖10g③塩1.5gを入れたらできあがり。これで市販の経口補水液(500mlで1本200円前後)より安価(=30~50円程度)で作れる。ブドウ糖はインターネット通販で入手できて、5gスティック1本で10~20円。インターネットの場合「ブドウ糖5gスティック」で検索すると商品を見つけることができる。ただし、手作りする場合は、不潔にならないように十分注意して、当日限りの使用で、飲み残したら廃棄してほしい。
脱水症状がある場合、経口補水液500ml(幼児なら300ml)をまず早めに飲んで、あとは少しずつ飲む。症状が改善したら、普通の水分摂取に戻す。下痢がない場合、ブドウ糖がなければ砂糖20gでも代用可能。しかし、吸収はブドウ糖より遅くなる。
豊田裕章(とよだ・ひろあき)
1957年大阪市生まれ。豊田歯科医院院長。1999年に食・健康・環境を学ぶ市民学習会「おむすびの会」を発足し、活動を続けている。近畿農政局「食育仕事人」に登録され、これまで、食育と「弁当の日」、水分補給と経口補水液についてなど、関西エリアを中心に全国で講演を行っている。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップ、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。