NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。4月14日に放送された第十五回「おごれる者たち」では、藤原道長(柄本佑)の長兄・道隆(井浦新)を筆頭に、隆盛を誇る藤原一族の姿やその支配下の世で生きる主人公まひろ(吉高由里子)の日常が描かれた。
この回は、物語の中心となるまひろと藤原道長(柄本佑)の関係はほぼ描かれなかった上に、軸となるドラマも希薄で、どちらかというとスケッチ、あるいは群像劇風に多数の登場人物たちの日常を描いている印象を受けた。
だからと言って面白くなかったかというと、そうではない。失意のどん底にあった藤原道兼(玉置玲央)の再生や中宮・藤原定子(高畑充希)によるききょう(ファーストサマーウイカ)への”清少納言”命名、まひろと友人さわ(野村麻純)の石山寺詣など、見どころ満載。いつもと変わらず45分間、画面にくぎ付けになった。
その数々の見どころが見どころとしてきちんと成立したのは、これまで積み重ねてきた登場人物たちのドラマが裏付けとして存在したからだ。
例えば、荒れた生活を送る次兄・道兼を道長が立ち直らせる場面。この回で描かれたのは、「道兼が家に居座り、困っている」と藤原公任(町田啓太)から相談を受けた道長が、道兼を迎えに行き、家に戻るよう説得する場面だけだ。これまでの経緯を知らずにこの回だけを見れば、道兼は他人の家で泥酔するただの迷惑な男にしか見えないだろう。
だがわれわれは、「父上のためなら、いくらでも泥をかぶる」と、長年汚れ仕事を引き受けてきた道兼が前回、期待していた後継者指名で父・兼家(段田安則)に裏切られたことを知っている。だからこそ、褒められない部分もあるとはいえ、荒れる道兼に少なからず同情心も湧いてくる。そして、道兼を迎えに来た道長の説得も、まひろの母の死を巡る過去の2人の確執があるからこそ胸を打つ。「この道長が、お支えいたします」という道兼に対する言葉も、独善的な道隆と違って公平な政治を行おうとする道長の人柄を承知していなければ、うなずくことはできないはずだ。
このように、これまで道兼と道長の間で繰り広げられてきたドラマがあったからこそ、この場面が視聴者の心をつかんだのだ。
さわに誘われて旅に出たまひろが、石山寺で藤原寧子(財前直見)と出会って感激するシーンも同様だ。二人が顔を合わせるのはこの回が初めてだが、源倫子(黒木華)の館で開かれてきた勉強会で、これまで何度か寧子が書いた「蜻蛉日記」が話題になり、まひろがその熱心な読者であることも描かれてきた。それを知っていることで、われわれも寧子と対面したまひろの気持ちに共感することができる。
言ってみれば、物語よりもキャラクターの魅力で視聴者を引き付けるような回だったが、こういった楽しみ方ができるのも、1年の長期にわたって放送される大河ドラマならでは。放送も第十五回を終え、現在は全体の3分の1くらいが経過したところだろうか。快調に進む物語と共に、回数を重ねたことで役者陣の芝居も乗ってきている様子が、画面からも伝わってくる。これからさらに円熟味を増し、充実したドラマで私たちを楽しませてくれるはず…。そんな予感がひしひしと漂う第十五回だった。
(井上健一)