カルチャー

危機に立ち向かう 【サヘル・ローズ×リアルワールド】

 地球自体の不安定さを感じずにはいられない2024年。年々感じてはいるが、特に今年は気温の上昇が気になった。気温の上昇は命を直接奪うだけでなく、自然界の生命をも変動させてしまう。そうなると食料不足や高騰にも拍車がかかりだし、それらが生活面でも響く。今回、台風が立て続けに起きていることでお米農家も大きな打撃を受けています。小麦などを輸入に頼っている日本にとっては、お米で代用できる面も多かったが、それすらも今後危うくなる。

 私のようにここまで危機感を持って生きることが正解というわけではないと思うが、正直、多少なりとも蓄える用意と、無駄を少なくすることを今からでも始めてほしい。デパ地下、スーパーなどで売れ残りは多くあり、それらはどんどん廃棄されていく。一方で、子ども食堂は食料不足になり、貧困層も増えていく。シェルターなどの施設にも支援が少なくなっていく。静かな崩壊は足元に広がっているのを今、どれほど感じていますか? 口にしているものを飲み込むように食べるのではなく、しっかりと噛(か)みしめていただいてほしい。

 9月13日に公開された『シサム』という映画の中で、私はアイヌの女性として生きています。アイヌ文化を題材とした映画はいくつもありますが、今作を通して気付いてほしいのは、アイヌという文化と、和人=日本人が、そこにどう入ってきて、自然界の流れをどのように変えてしまったのか。歴史は複雑ではありますが、勝ち負けではなく、何が起きたのか、多少なりとも知っていくと、食一つから向き合う人権と祖国の歴史を学べると思うのです。

 私もほんの少ししかまだアイヌを理解していない。重要なのは、知った気にならないこと。知ることはとても困難だが、知ろうとするその一歩が、祖国への重要な敬意ではないだろうか。そしてアイヌ文化と和人の中で当時起きていた事は、今の時代でも起きている気がする。アイヌが日本だとしたら、和人はアメリカではないだろうか。提示されたことに従うしかない、拒絶ができない関係性になっていく構造は、私にはアイヌと和人が重なって見えたのです。

 それはまさに、日本の食料自給率の数字にも表れている。輸入に頼らずとも、本来は日本国内でまかなえるものは多くある。土地はあるが、それを耕す人たちが少なくなってきているのも、輸入文化に慣れてしまった末路かもしれない。それ以上に職を奪われた農家の人々に罪はない。国というものはリーダーが変われば、衣替えをする。それが必ずしも的を射ているとは限らない。

 今、日本だけではなく、地球上に住む私たちに必要なのは団結力であり、損得でも、利益でもない。共存することは、本来人間にはできるはずではないだろうか? アメリカのリーダーが誰になるか。その行く末を気にする前に、一人一人ができることをするべきではないだろうか。搾取したら、次は搾取される。気候変動のせいではなく、人類そのもののあり方を正す時が来たのかもしれない。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 38からの転載】

 

サヘル・ローズ/俳優・タレント・人権活動家。1985年イラン生まれ。幼少時代は孤児院で生活し、8歳で養母とともに来日。2020年にアメリカで国際人権活動家賞を受賞。