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【はばたけラボ インタビュー】“知ること”が命を守る、夏の水辺の事故予防のために必要なこと――子どもの安全啓発活動家・岡真裕美さん

岡真裕美さん

 

 不慮の事故から子どもの命を守るための啓発活動を行っている岡真裕美(おか・まゆみ)さん。きっかけは、近所の川で溺れた子どもを助けようとした夫が、5歳の長男と2歳の長女を残して亡くなったことでした。海や川でのレジャーが増える夏、水辺の事故予防について聞きました。

 

◼️そんなに危険なところだと思っていなかった

–子どもの安全を守る啓発活動を始めるきっかけとなった事故とは。

 12年に水難事故で夫が亡くなりました。小中学生4人が川で遊んでいて、中学生の男の子が溺れ、助けようとした夫とその中学生の二人が亡くなったんです。夫は当時34歳、体格が良く、健康な普通のお父さんでした。そんな人が、土曜日の午後、近所の河川敷にジョギングに出掛けて20〜30分で亡くなったことは衝撃でした。

–その後、どうされたのですか。

 つらかったですが、幼い子どもたちのために生きねばと思った時に、いろいろ疑問が湧いてきたんです。「なぜあそこで子どもたちが遊んでいたのか」、「なぜ頭で考えて行動できるタイプの理系の夫が川に助けに入ってしまったのか」、「なぜ誰でも入れるような川なのに、人が溺れるくらいの深みがあることのアナウンスがなかったのか」。悲しみもありますし、納得がいきませんでした。「幼い子どもがいる子煩悩な男性が亡くなった」といった美談にするような事故報道もモヤモヤしましたし、行政に事故予防対策を訴えても大きな改善につながりませんでした。

 そのモヤモヤがきっかけで、大阪大学で事故予防の研究を始めたんです。最初は、なぜ誰も何もしてくれないんだという怒りが強かったのですが、温和な指導教官や研究室のメンバーに囲まれ、徐々に振り上げた拳が下がっていきました。夫が亡くなった事故がきっかけですが、今は保育事故や子どもの事故に特化した啓発活動を続けています。保育園や幼稚園で講演し、子どもの命を守るのが大きな仕事の保育士さんたちが真剣に聞いてくれます。

–結局、なぜ川に入ってしまったのか、見えてきたことはありますか。

 夫は体力があり泳げたので、自分なら助けられると思ったんでしょうね。川は住宅街を流れる市民の憩いの場となっていて、誰もそんなに危険なところだと思っていなかった。もし深みがあると知っていたら、思いとどまったかもしれません。それに夫には、プールで溺れた友達を助けた成功体験があったんです。亡くなった後に夫の同級生から聞き、その時の成功体験が救助に入った理由の一つかもしれないと思いました。

 

◼️交通事故の次に多い“屋外での溺水”

–子どもの水難事故はどのくらい起きていますか。

 子どもの不慮の事故死で、交通事故の次に多いのが屋外での溺水です。中学生以下の死者・行方不明者は毎年30人前後で、河川での発生が多いです。子どもは海やプールではなくて川で溺れています。昨日(7月7日)も、愛媛県西条市の加茂川で川遊び中の女児が亡くなりました。西条市は、2012年に幼稚園のお泊り保育中に加茂川でお子さんを亡くされた方をはじめ地域ぐるみで協力して啓発活動を続けていて、またあの川で事故が起きたことにとてもつらい気持ちになりました。交通事故や熱中症に比べると水難事故は少ないけれど、一度起きると命に関わるため、重要視するべきだと思います。死に至らないまでも、溺れかけたというヒヤリハットはいろんなところで起きています。

-川での正しい遊び方について教えてください。

 川には「自己責任の中での自由使用」という原則があるんです。管理者は行政ですが、自然物である川にすべて柵を立てて立入禁止にすることはできないですよね。なので、夫の事故の時も「危ないと分かっていても何もできません」といった返事が返ってきました。そんな川に「危険」の看板があれば特に危ない場所ということですし、「立ち入り禁止」や「飛び込み禁止」の看板がない場所でも安全だという保証はありません。

 消防士や救命のプロは、川はそもそも入るところじゃないという人も多いです。それぐらい川は危険だという認識がプロの中にはあります。安全とされるのは「くるぶし」くらいの深さ。膝下程度の深さでも、流れが早いと流されてしまうことがあります。

 身近な川でも事故は起こり得ます。08年に神戸の都賀川で起きた事故では、上流で雨が降って急に増水し、子ども3人を含む5人が亡くなりました。事故から15年以上が経ち、当時のことを知らない人たちが引っ越してきて親になり、事故が風化しつつあります。幼稚園のお迎え後に浮き輪で遊ばせたり、小学生が川に飛び込んだり。人が亡くなった現場であるにもかかわらず、感覚がまひしてしまうんですね。身近な川でも「絶対に大丈夫」はないと認識してほしいです。

 

■大人にもない“事故を未然に防ぐ知識と意識”

–事故予防のために、子どもにどう働きかけたらいいですか。

 子どもだけで川には行かないでと教えましょう。浅いと思っても急に深くなることがあります。お友達が溺れても助けに行かず、大人の助けを呼びましょう。もし救急車を呼べるなら119番通報が最善です。絶対に自分で助けに入ってはいけないと教えてください。川に入ろうと思っていなくても、ボールや帽子が飛んでいく、靴を流されてしまうことがあります。「お家の人に怒られると思った、もうちょっとで届きそうだ」という理由で川に入ってしまうので、「流されたものは追いかけてはいけない」と伝えてください。

–水難に関する教育は進んでいますか。

 少しずつ、学校での着衣水泳が広がってきました。私が啓発活動をし始めた16年ごろ、小学校の授業で「友達が溺れていても助けたらだめだよ」と指導したら、子どもたちが「え〜」と声を上げました。ある子が「それは見殺しにするってことですか」と質問し、「違う違う、見殺しにするんじゃなくて、みんなも助けに行くと死んでしまうかも分からないから、助けを呼ぶのが一番いい助け方なんだよ」と説明したら、先生方も「そうなんだ」と驚いていました。なので、まず大人が知らないという現状があります。

–なるほど。では大人がするべきことは?

 バーベキュー中など、大人が目を離している間に子どもが流されることが多いです。必ず子どもを見る係を決め、手が届く範囲で遊ばせてください。「ここで泳ぐな!危険」といった看板がある場所には連れて行かないでください。自然体験活動を行っている団体は事前に川の深さや安全をチェックし、川下にネットを張ってそれ以上流されないようにするといった対策をしています。去年安全だったから大丈夫ということはなく、チェックも毎年行っています。そこが一般キャンパーとプロの違いですね。

–夏、安全に遊ぶためには?

 水辺に行く際は、サイズの合ったライフジャケットを必ず着用してください。ライフジャケットを着用していれば、落ちたり流されたりしても浮くので安全性が全然違います。最近はレンタルも増えています。川では、たとえくるぶし以下の深さでも、流された先にどんな深みがあるか分からないので、ライフジャケットは必須です。子どもだけでなく、大人も着用していただきたいです。

 ただ、これは簡単ではありません。知り合いがグループでキャンプに行った時、子どもにライフジャケットを着せたら他の大人から「ライフジャケットなんか着せたら泳げなくなるよ」と言われて脱いでしまい、結果的に溺れかけた例もあります。身内や親しい人が危険な目に遭ったり亡くなってみないと、みんな真剣に捉えないんです。私自身が身内に起きてから考え始めたので、難しいのはよく分かります。

–中高生や若者は特に無茶をしてしまいそうです。

 高校生の長男が友達と琵琶湖に行く際にライフジャケットを買って持たせたのですが、「誰も持ってきていなかった」と言って、着ないで帰ってきたんです。自分の父親が川で亡くなっているのに、それでも着てもらえないんだとがくぜんとしました。なので、良識あるリーダー的な存在の人が、「ライフジャケット、みんな持ってこいよ」のように言ってくれるのが一番効果があると思います。その場のノリで危険な行動をしてしまう中高生を止めるのは難しく、私でも止められませんでした。本当は、ライフジャケットの着用を法律化してほしいです。シートベルトぐらいの拘束力がないと、なかなか着用してもらえないので。

–ヒトは「 」で人になる。あなたが考える「 」に入る言葉を教えてください。

 「知ること」が大事ですね。どんな事故が起きているのかを知れば、「やめておこう」とか「ライフジャケットが必要だよね」と思えるからです。どうすれば防げるのかを知ることで、自分の安全を確保できます。自然体験で安全を学ぶには限度がありますが、「知ること」だったらタダでできます。図書館で本を読むとか、インターネットで見るとか、危険や安全について知っていただきたいです。

 そのために作ったのが、『子どもを全力で守る本 事故・ケガで我が子を死なせないために』という本です。私たちの周りには防げる事故が多数あります。気軽に読んでもらえるようマンガを取り入れ、読みたくなるよう工夫しました。屋外や屋内の危険の他に、心の中の危険、「これくらいなら大丈夫だろう、今年は大丈夫だろう」といった正常性バイアスや楽観性バイアス、生存者バイアスにも気付いてほしいです。

『子どもを全力で守る本 事故・ケガで我が子を死なせないために』(中井宏・岡真裕美編著、上田バロン画、いそっぷ社、税込1650円)

 

岡真裕美(おか・まゆみ)/80年生まれ。香川県出身。2児の母。大阪大学大学院人間学研究科子どもの安全ラボ所属。大阪総合保育大学非常勤講師。結婚・出産を経て中学高校教員として勤務。12年、夫が子どもの水難事故に遭遇し救助死したことがきっかけで、「子どもの安全」について一から勉強し直すために大学院に進学。現在、全国の保育・教育関係者等に向けて子どもの事故予防について講演や啓発活動を行っている。事故防止のための本を作りたいという思いが募り、クラウドファンディングで資金調達。4年の歳月をかけて『子どもを全力で守る本 事故・ケガで我が子を死なせないために』を完成させる。

#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。