ペット

コラム「旅作家 小林希の島日和」 我が家のネコは、島生まれ

 2匹のネコとの暮らしは、今年5月で7年目を迎える。私がネコを好きになったのは、2012年から「海外の街とネコ」の写真を撮るようになってから。漁村や山村、戦禍にみまわれた街跡などで、自由に、孤高に生きているネコに惹かれていった。何より、ネコを愛する人たちの姿を眺めると幸福感に満ちた。

 日本に帰って、「ネコがいる島へ」と出向いたのは、瀬戸内海のネコ島と呼ばれる佐柳島(さなぎしま)だった。島に船が着くと、10匹ほどのネコたちが桟橋へやってきて、足元に体を寄せて甘えてくる。ネコにとってはエサ(おやつを持った人間)が降りてきただけでも、ネコ好きには、ネコによる熱烈大歓迎の図にしか思えず、桟橋付近から抜けられない。

 佐柳島には、通称〝ネコおばさん〟がいて、ネコたちにご飯をあげているようだった。もちろん、島には島の事情があり、ネコ好きもネコ嫌いもいる。部外者の私は、島のルールに従って、写真を撮ったり、おやつをあげたりして過ごす。その距離を少しだけ切なく思うこともしばしば。旅ばかりする私は、「いつかネコと暮らすこと」を小さな夢にしながら月日は流れていった。

 運命の出会いは、18年に東京の御蔵島(みくらしま)へ行った時だ。観光協会へ立ち寄ると、本土で開催している「森ネコ写真展」を紹介された。近年、飼いネコが野生化して森の中で増え、オオミズナギドリを捕食しているという。御蔵島は世界最大級のオオミズナギドリの営巣地で、有志たちが「森ネコ」を捕獲し、里親を探す取り組みを始めたというのだ。

 本土に戻って写真展に出向くと、森ネコたちがすっかり飼いネコの表情をして、里親たちと過ごす日常の写真が展示されていた。それから主催者と連絡先を交換し、何度もネコたちに会いに通った。

 ある日、ハチワレ柄の「フィリックス」と名付けられた男の子(当時推定6歳)と目が合い、「この子と暮らしたい」と思った。近づくと、喉元から「パンッ!」と聞いたこともない破裂音を出して威嚇された。涙目である。ただ、この子が安穏と過ごせる場所を提供したいと思った。主催者の勧めで、茶トラ柄の子ネコと一緒に引き取ることにした。

 実は、2匹が家にやってくる1週間ほど前に、突然父が亡くなった。腕に抱いた子ネコは、尻尾がシュッと長く、父が趣味で毎日描いていた水墨画の小筆にそっくりで、「こふで」と名付けた。フィリックスも、今は「おやつ、くれ」と甘えに来てくれる。ふたりは、私の宝物だ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 14からの転載】

小林希(KOBAYASHI Nozomi)/1982年生まれ。出版社を退社し2011年末から世界放浪の旅を始め、14年作家デビュー。香川県の離島「広島」で住民たちと「島プロジェクト」を立ち上げ、古民家を再生しゲストハウスをつくるなど、島の活性化にも取り組む。19年日本旅客船協会の船旅アンバサダー、22年島の宝観光連盟の島旅アンバサダー、本州四国連絡高速道路会社主催のせとうちアンバサダー。新刊「もっと!週末海外」(ワニブックス)など著書多数。