未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」の新連載「弁当の日の卒業生」。「弁当の日」、その日は買い出しから片付けまで全部一人で。2001年に香川県の小学校で始まった食育活動は、約25年を経て全国に広がっています。その提唱者である竹下和男氏が「弁当の日」の卒業生の今をつづります。
Fくんは小学3年生の時に「弁当の日」が始まったことを覚えていました。
「弁当の日」が始まる5年生になるまでに、ランチルームで先輩の手作り弁当を2年間で10回のぞいてきたのです。だから自宅の食事の準備は、チャンスがあると手伝ってきました。5年生から家庭科の授業が始まりました。弁当の献立の作り方を習い始めると、がぜんおもしろくなってきました。それまで台所でやっていたのは食材を切る・焼く・ゆでる等の単純作業で、親に指示されたとおりにしただけでした。ところが栄養素や食材選びやいろどりを考えて弁当の献立を作ると、出来上がりに自分らしさが出てくるのです。
滝宮小学校で10回の弁当作りを経験しましたが、中学校・高校では一度も作っていません。勉強や部活動に追われ、学校で弁当が必要な日は親が作ってくれました。県外の大学に進学しましたが、食事は大学の食堂や外食が中心で、下宿で自炊をすることはめったになかったです。それで4年生になった頃はちょっと肥満体型になっていました。世界各地を旅したい気持ちが強くあったので英語力をつけるために、親に頼んで半年間アメリカに留学させてもらいました。向こうの外食は高かったので、やむなくスーパーで食材を買ってきて自炊をはじめました。そのうちに、眠っていた「献立作りを楽しむ心」が目覚めました。調理方法を工夫すること、手順を考えることが面白くなり、そして掃除・洗濯まで手際よくすることを心掛けるようになりました。気が付いたら家事のすべてが楽しくなり、帰国したときは健康な標準体型になっていました。そういえば小学6年生の「弁当の日」にテレビの取材を受けました。東京のテレビ局だったので、讃岐うどんをアピールしようと、自分で打ったうどんで焼うどんを作りました。
そのテレビ放送を私も見ました。ボールの中の小麦粉を必死にこねているFくん、それを心配そうに離れたところから見守るお父さんの顔を今でも覚えています。彼は「自分で考えて、自分らしく課題を克服する力は、弁当の献立作りが原点です」と明言しました。
彼は今、家事のすべてをこなす2児のお父さんです。お子さんたちは、家事が大好きな大人に成長することでしょう。

竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。