未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」。食べること、くらすこと、周りと関わること、ワクワクすること・・・。今のくらしや感覚・感性を見直していく連載シリーズ。今回は、弁当作りを通じて子どもたちを育てる「弁当の日」の提唱者・竹下和男(たけした・かずお)先生が、別の大学に入り直したいと望む息子を持つ親の悩みについてアドバイスします。
入った大学が合わない 受験し直したいと言うが・・・
【質問】
大学1年生の息子が、「今の大学は自分に合わない。別の大学に入り直したい」と言っています。第1志望の大学に合格できなかったので、第2志望だった今の大学に入学しました。とはいえ、今の大学の何が不満なのか、聞いてもはっきりした答えは返ってきません。授業にもほとんど出ていないようなので、このままでは単位も取れないのではないかと心配しています。別の大学を受験し直してもうまくいくとも限らないし、どうしたらいいのでしょうか。
▼どんな大学を卒業するかよりも 「学ぶ姿勢」の基礎作りを
あなたの息子さんは、私(75歳)の愚息(43歳)と同じことを言っていますね。愚息が入学した大学は親が半ば強制的に受験させた、日本の大学の教育学部でした。私たち両親が教員だったので、教員になってほしかったのです(つまり、その大学は第二志望)。しかし、2カ月ほど授業を受けても学ぶ意欲が湧かないと、見切りをつけて、ドイツの専門学校に通い始めました。その専門学校は、愚息が高校生の時に2週間の体験入学をしていました(つまり、その専門学校が第一志望)。日本の大学に1年目の授業料は納めましたが、2年目からは休学したので納めなくてよくなりました。
私は日本の大学への復学を期待していましたが、休学期間の延長を繰り返し、ついには退学届を出しました。彼が、納得のいく学びができたと言って帰国したのは4年後でした。そのための経費(授業料・生活費等)は日本の大学に通うよりは、かなり安い金額でした。現在は、研究した学問のセミナーを開設し、オンライン講座で生計を立てています。履歴書に書く学歴は高卒ですが、なんの不都合もありません。これは成功例の一つですが、経済的に安定するまでには、専門学校卒業後10年近くを経ています。
息子さんが入学している大学をA大、入りなおしたい大学をB大とします。A大卒業時の息子さんの価値(能力)をAa、B大卒業時のそれをBbとします。息子さんはAa<Bbと考えているのでしょう。でも私はAa≒Bb(ほぼ等しい)くらいの差だと思っています。なぜなら社会人として生きていくためには、卒業後に必要に迫られて習得する能力のほうが、AaやBbよりはるかに大きいからです。だから大学時代に学んだ質や量の差異より、卒業後に目の前に次々生じる新しい課題にどん欲にチャレンジできる「学ぶ姿勢」の基礎づくりができたかどうかの方が重要なのです。
そのためには、A大かB大かの選択に迷う必要はなく、今から「学ぶ姿勢」が身につく生活をする方がいいのです。だからA大の授業を受け始めてもいいし、B大を目指して受験勉強に打ち込んでもいいのです。
今は、何が不満なのかはっきり言えない中途半端な日々のようですが、どちらかを選び、空虚な日常から脱却して、真剣な学びの生活で「学ぶ姿勢」の基礎づくりを始めることを祈っています。学ぶことが楽しくなってくると、登ってみたい峰が見えてくるものです。
竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパンとともにさまざまな活動を行っています。