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前田敦子、ミュージカル初挑戦作品に「改めて女性であることがうれしい」【インタビュー】

 女性アイドルグループAKB48を国民的人気アイドルグループへと導き、絶対的センターとしてグループを支え続けた前田敦子。2012年にAKB48を卒業後も、舞台やドラマ・映画などで女優として精力的に活動を続けている。9月3日から上演される、ミュージカル「夜の女たち」では、君島夏子役で出演する。本作は、溝口健二監督の同名映画を原作とし、戦後間もない大阪釜ヶ崎を舞台に、生活苦から夜の闇に落ちていった女性たちが、必死に生き抜こうとした姿を、長塚圭史が自身初のオリジナルミュージカルとして描く。戦争で全てを失い、自暴自棄になってダンスホールのダンサーとして生きる役に挑む前田に、ミュージカル初挑戦への思いや、本作の見どころ、AKB48卒業からこれまでを振り返ってもらった。

前田敦子 (C)エンタメOVO

-ミュージカル初挑戦となりますが、今の心境は?

 ミュージカルではありますが、長塚さんという、絶大な信頼を得ている、すごくすてきな俳優さんであり、演出家さんであり、劇作家さんである方の作品ですから。長塚さんでなかったら挑戦していませんでした。

-「長塚さんの舞台、いつかいつかとひそかに夢見てました」とオフィシャルでコメントしていましたが、実際に長塚さんの作品に出演すると決まったときはどんな気持ちでしたか。

 長塚さんがNODA・MAPの「フェイクスピア」を見に来てくださったときに、「見つけた」と言ってくださったんです。そんなふうにいつか思ってもらえたらいいなと思っていましたし、長塚さんは自分の作品にハマっている人を呼んでいるなというイメージがすごくあって、そのタイミングがこんなに早く来るとは思っていなかったので、うれしかったです。

-ミュージカルの稽古はどのような感じですか。

 もしかしたら、ほかのミュージカル作品のお稽古はもっと違うのかもしれませんが、みんなでセッションをしながら、お芝居をしていきながら歌っていくという稽古になっています。歌だけ抜いての稽古もありますが、本当にお芝居に関した歌という稽古になっています。長塚さん自身もオリジナルミュージカル初挑戦なので、「いっぱいお稽古をしたい」とおっしゃっていて、2カ月前から稽古が始まっています。

-今の豊かな時代からは想像できないような敗戦直後の時代の話ですが、作品の印象は?

 これをストレートプレーにしてしまうと、とても重たくて、ただ悲しい作品になってしまいますし、今回は女性が中心で、私たちの強さを生かしながら、その時代の人たちの代弁ができるというのはすごく意味があると思っています。それがミュージカルになることによって、見ている方にも一瞬で一緒の空気を吸いやすい環境になるんじゃないでしょうか。女性はこんなにつらかったんだというものをただ見せたところで、苦しいだけの作品になってしまうので、それをエンターテインメントに落とし込みながら、こんな歴史があったんだなと私自身も思いますし、そんな時代でも女性たちの生命力はすごかったんだなと感じることがあって、私は改めて女性であることがうれしいなと思いました。

-ミュージカルとして夏子の見どころは?

 夏子がダンスホールで踊るシーンです。ダンスホールはすごく華やかで、当時は女性が中心になって活躍できる場がそこしかなかったみたいで、ダンサーという職業は女性の憧れだったそうなんです。でも、夏子はそれをいいことだとは思っていなくて、しかたなくやっている部分があります。ダンスホールのミュージカルシーンは、見た目にはすごく華やかに見える感じはしますが、そのバックボーンを考えるといろいろと考えさせられると思います。

-夏子を演じる上で考えていることは?

 時代背景がしっかりしているので、現代に生きる人にならないようにとは考えています。夏子は、見た目は現代に近いと思いますが、女性らしさといった、その当時の風情がすごくあったんじゃないかなと思っているんです。現代の人はちょっとがさつだと思うんです、私も含めて(笑)。もう少し女らしさみたいなものを昔の作品を見ながら探って勉強しないといけないなと考えています。映像とは違って2時間半ほどの上演時間を通してキャスト全員が舞台上に立たないといけないので、今後も勉強しないといけないことはいっぱいあります。

-姉役の江口のりこさんの印象は?

 舞台「そして僕は途方に暮れる」で一緒でしたが、そのときも私が一方的に大好きで(笑)。それをハイハイと受け止めてくれる本当に姉御肌な方だと思います。ぶれないことをモットーとして生きている人だと感じるので、お会いすると、「何も変わっていないまま、でも時が流れているね」とよくお話をするんです。普通に生きていて、普通の方なんですが、でも真っすぐなので、だからこそお芝居への向き合い方も真っすぐな方です。

-長塚さんは、KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督2年目のタイトルを「忘」としていますが、「忘」で思い浮かべることは?

 私は嫌なことを忘れるのは得意だと思います(笑)。全然引きずらないタイプです。どんな仕事もそうだと思うんですけど、ネガティブに考えて続けていたら前に進めないですから。

-AKB48を卒業して約10年となりますが、この10年を振り返ってみていかがでしたか。

 仕事が年々楽しくなっています。自分らしさみたいなのが少しずつ見つけられるようになっているのかなと思います。仕事をしていく中で、人それぞれのやり方とかはあると思いますが、私はこういう感じかなというのは少しずつつかめるようになってきて、全てが楽しくなってきています。

-これからの目標は?

 目標は作らないようにしています。こうなりたいという考えは、ある意味で縛りつけていると思うので。それは、私たちの仕事にはちょっと違うんじゃないかなと思っています。私たちは、これをやりたいからこれをやりますではなく、呼んでもらわないと始まらないので、「こういうのしかやりたくないんですよね」と提示してしまうのは絶対に違うと考えています。私を見て、何かを見つけて、新しい前田を見たいと思ってくれる人がいたらそれが一番幸せだと思います。

(取材・文・写真/櫻井宏充)

ミュージカル「夜の女たち」

 ミュージカル「夜の女たち」は、9月3日~9月19日に、神奈川県・KAAT神奈川芸術劇場<ホール>ほか、福岡、愛知、山口、長野、兵庫で上演。
公式サイト https://www.kaat.jp/d/yoruno_onnatachi