子どもたちに人生の選択肢を「前例のないチャレンジ続ける」
キメラ・ユニオンの文平龍太代表理事

キメラ・ユニオンの文平龍太代表理事(2024年4月)
キメラ・ユニオンの文平龍太代表理事(2024年4月)

 日本伝統の城を背景に、若者に人気のアーバン(都市型)スポーツの自転車競技BMX FLATLAND(ビーエムエックス・フラットランド)の大会を開き、集まった人たちには体験の機会も提供、さらに歴史文化に関連する観光ツアーにも参加できる-。日本にこれまでなかった、アーバン・ストリート系スポーツを軸とした新たな総合エンターテインメント・コンテンツが誕生している。競技者、パフォーマー、自治体、観光業界などを巻き込んでこの動きを仕掛けているのが一般社団法人「キメラ・ユニオン」の文平龍太代表理事(51)だ。中心にあるのは「子どもたちに、自分自身で何かを選択し、その決断に責任を持つという生き方を伝えたい」との思いだ。

2023年に開催されたキメラ・ゲームズでのFMXの演技
2023年に開催されたキメラ・ゲームスでのFMXの演技
▽スクールキャラバン

-活動のきっかけと、団体名の由来は。

 キメラ・ユニオンの設立は2017年2月ですが、その数年前にバイクでジャンプしてトリック(技)を競うFMXの選手から「スポンサーも集まらず、競技だけでは食べていけない」という相談を受けたことでした。そこで考えたのは、FMXだけでなく、スケートボードとか、ダンスとか、ダブルダッチ(2本の大縄跳び)とか、けん玉とかスポーツの数を増やすことでお客さんも増やそうという「パイを取り合うのでなく、みんなで集まって全体を盛り立てよう」というやり方でした。「キメラ」というのはギリシャ神話に出てくるライオンの頭とヤギの胴体、ヘビの尻尾を持つ合成獣です。異なるものが集まり一つ魅力を形づくるという意味を込めました。

 小規模なイベントをするうちに気付いたのが、選手たちの「どうせ自分たちのやっていることは一般の人には分からないだろう」という思い込みでした。それまで見たこともないような競技に触れてもらうためにはどのようなメッセージが必要か。選手たちには「人に求められる人間になろう。『見に来てもらう』でなく『こちらから届ける』。それがプロとしての責任ではないか」ということを繰り返し伝えてきました。

2017年10月に静岡市の伝馬町小学校で行われたスクールキャラバン
2017年10月に静岡市の伝馬町小学校で行われたスクールキャラバン

-子どもたちへのメッセージで重きを置いたことは。

 まずは学校に行こうということで、活動を「スクールキャラバン」と銘打ちました。子どもたちは普段の学校教育や部活動では与えられたことをするばかりなので、好きなものを選択してできるということを伝えたいと思いました。どのスポーツを選ぶかはもちろんだし、例えばスケートボードの板をもらったとしても、普通に乗ってもよし、ほかの遊び方をしてもよしということです。何かをインプットしてあげるのは大人の役割だけど、どうアウトプットするかは好きにしろという考え方です。

 そんな中、廃校と校舎の取り壊しが決まっていたある地方の小学校でのイベント開催を請け負いました。やったのは「1日好きなように子どもたちを遊ばせる」ということでした。普段やらないことを目いっぱい遊びながら体感することで最後のお別れに自分たちの校舎を強く記憶に残してもらうという狙いでした。その様子が地元のテレビ局で放映され、その後、「うちでも似たようなイベントを」というご相談をいただけるようになりました。

2022年5月に京都市の修学院小学校で行われたスクールキャラバン
2022年5月に京都市の修学院小学校で行われたスクールキャラバン
▽最高の草大会

-子ども向けの活動の一方で、東京五輪でBMXやスケートボードなどの採用が決まりアーバンスポーツの人気が高まっていた2020年に「CHIMERA A-SIDE SUPER LEAGUE(キメラ・エーサイド・スーパーリーグ)」という誰もが参加できる最強決定戦となる大会も開催した。

 あれは少しひねくれた気持ちでやりました。日本ではスポーツというと、スポーツ協会があって、日本オリンピック委員会(JOC)があって、頂点に五輪という階層になっているが、それに対抗して「最高の草大会」を開こうじゃないかということでした。競技はBMXとスケボーとインラインスケート。誰もがトライするチャンスをつくるため、1年かけて国内で予選を行い、ポイントを獲得した選手が、キメラで招待した世界トップと競うことができるという仕組みでした。日本の選手が世界で上位に立つことが多いアーバンスポーツは、少子化によって団体競技をする機会が減った子どもたちにとって、新しい未来の選択肢となる可能性があります。だからこそ4年に1度の五輪の機会だけではなく、日本に住む子どもたちの誰もが世界のトップに挑める最高峰の草大会にしました。

2019年キメラAサイドのスケートボード競技
2019年キメラAサイドのスケートボード競技

 僕が考える日本のスポーツの問題点は、競技大会が中心にあるため、新しいスポーツや文化がコンテンツとして育たないという点です。「自走できるコンテンツ」にするにはどうすればいいのか。それが今も僕がチャレンジしているところです。キメラが開く大会では、練習できる広大な場所を作ります。見に来ていて、自分もやりたくなった人は、思う存分そこでエネルギーを発散できます。同時に、通りすがりのように来た人でも興味を持てば体験イベントがある。気軽、快適に飲食できる場所もあり、競技に直接関係ない人でもそこにいたくなるエリアにする。トップ選手の競技はそこにいる人たちを引きつける魅力的なショーケースとなります。選手たちには「子どもたちをどれだけ楽しませることができるか。プロの仕事を期待している」と話しています。競技至上主義で競技場だけで何かをするのでなく、大会そのものを町に装着してしまうという考え方です。

2023年のキメラ・ゲームズに集まった観客
2023年のキメラ・ゲームスに集まった観客

-文平さん自身は元ラグビー選手で、奈良・天理高、明治大では全国優勝を経験、社会人も強豪クボタに進んでいます。そうした経歴に根差す部分もあるのですか。

 僕はずっと練習が大嫌いでした。ただ試合なら何時間でもやりたいというタイプでした。部活動も「教育の一環」などと言われますが、強豪チームではレギュラー以外の大多数の選手は球拾い。一体、何を教育しているんだという疑問はいつも感じていました。大事なのは、どんなレベルでもプレーをすること、それが今の「草大会」という考え方につながっています。もう一つ、天理高の田中克己監督は僕に対し小言めいたことを言わないばかりか、指導らしい指導もしませんでした。後で聞くと「お前はほっといた方が面白いと思ったから」と言われました。放任される中で、ゲームのマネジメントをし、ぎりぎりの状況で決断を下すという経験は、間違いなく今に生きています。

2024年3月のキメラAサイド・BMXフラットランドバトル熊本城編での一コマ
2024年3月のキメラAサイド・BMXフラットランドバトル熊本城編での一コマ
▽世界が注目する日本の歴史文化×アーバンスポーツ

-3月に熊本城横の花畑広場で初戦を行った「CHIMERA A-SIDE BMX FLATLAND BATTLE(キメラ・エーサイド・ビーエムエックス・フラットランド・バトル)」は7月には姫路城、11月には名古屋城でも予定されている。アーバンスポーツに歴史文化、食、観光といったさまざまな要素が絡むという意味でキメラの本質が詰まった大会と言える。

キメラAサイド・BMXフラットランドバトルのイメージ画像
キメラAサイド・BMXフラットランドバトルのイメージ画像

 その名の通り、フラットなエリアで舞うように自転車を操るBMXフラットランドはエンターテインメント性が高く、競技年齢層も広く、日常のライフスタイルに溶け込みやすいという特徴があります。A-SIDEでフラットランドの大会を商業施設で実施した際に、「面白い!」という声が多く聞かれました。詳しくない人にも勝ち負けが分かりやすいバトル(対戦)方式にすることで、「若者たちが注目する分からないスポーツ」から、相撲や格闘技のように勝敗が分かりやすい「誰もが楽しめるスポーツ」になったのです。

 日本の名城で開催することになったのは、日本人が世界の上位を占めるフラットランドの競技者は、世界から来日する強豪と一対一で戦う侍のようだと思ったことがきっかけです。日本の侍で剣豪である宮本武蔵を大会コンセプトの中心に置きました。二刀流の武蔵のように、競技者がBMXと一体になって強豪に挑む姿は「現代版武将戦」とも言えると。

 熊本城の大会では武蔵ゆかりの地を訪れるバスツアーを組んだのですが、参加者が武蔵の「五輪書」に触れるなど、開催地の歴史文化を知り、観光や食文化を楽しんだことも特色だと思います。中には武蔵を知ることで自身のビジネス展開に応用するといった人がいるかもしれません。入り口はたかがBMXでも、ここまで人生を豊かにする機会と出会うチャンスを秘めている。競技者も見る人もBMXを通じて新しく何かを発見するのです。このフラットランドバトルは、世界中の競技者が日本をめがけて挑む世界大会なりました。

2024年3月キメラAサイドBMXフラットランドバトル 熊本城編で行われた宮本武蔵創始の「二天一流」の演武
2024年3月キメラAサイドBMXフラットランドバトル 熊本城編で行われた宮本武蔵創始の「二天一流」の演武

-自治体や企業との連携は。

 自治体と組ませていただく場合は、その地域の子どもたちにとって有意義であり地域活性につなげることを目的にイベントなどを検討するケースが多いです。ただ、アーバンスポーツの「競技」としての面だけを見て実施するのか、先に競技を見据えて子どもたちの体力向上や多様な価値観を学んでもらうために実施するのかでは、大きく違いがあると思っています。

 東京五輪を機にアーバンスポーツを取り入れる自治体はかなり増えてきました。しかし、スケートパークをつくることで触れる機会は増えても、自治体の望むスポーツを取り入れた地域活性や子どもの体験機会の増加につなげるには、その自治体の特性に合ったスキームというソフト面を組み立てることが何よりも大切だと思っています。

 子どもが目いっぱい遊びながら新しいスポーツを体験するイベントを緊急時の避難場所で行えば、楽しかった記憶とともに避難場所を覚えることができます。地域の商店街や住民の方も子どもと一緒に体験できるイベントを実施すれば、地域ポイントの活用などを取り入れて地域の方にも喜んでもらえる新しいスポーツプログラムになる。実際に私たちのイベントを見た担当者の方から「おっしゃっていたことが、わかりました」と言ってもらうことがよくあります。何よりも子どもたちのリアクションが雄弁に物語るのだと思います。

 企業の場合は直接、企業の担当者の方とお話しすることが多いです。端的に(無駄が)そぎ落とされたイベントとして代理店から受け取るより、体感することを重視し多面的に実施するキメラのプログラムなら、自社の製品やサービスが幅広い層にリアルに届くと期待されているような気がします。それはリアルに人を動かす広告と言えるかもしれませんね。私たちから企業にお伝えするのは、イベントの概要ではなく、子どもたちが人生で初めてあることに触れたり挑戦したりする、その最初の思い出になる場所を一緒にプロデュースしませんか、ということです。企業側からすれば、その場に自分たちの会社も存在する、理念が重なっていると思えるところが大事なのだと思います。

 -キメラ・ユニオンの将来像は。

 繰り返しになりますが、子どもたちに、人生は与えられたことをするだけでなく、たくさんの選択肢があるということを伝えたい。日本という国や、出会った企業に希望や夢があると思ってもらいたいと思っています。僕は「矛盾とカオスの中で生きる」ということを信条にしています。今やっていることは、前例も参考になるモデルもない道ですが、自分のチャレンジを続けていきたいと思っています。

2019年キメラAサイドで記念撮影する文平代表理事(右端)ら
2019年キメラAサイドで記念撮影する文平代表理事(右端)ら