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早見あかり、アイドルから俳優へ 「楽しく生きる」をモットーにまい進【インタビュー】

 アイドルから俳優へ転身し、NHK連続テレビ小説「マッサン」や映画『シン・ウルトラマン』など多数の話題作に出演し、俳優として着実に歩んできた早見あかり。9月15日から開幕する舞台「血の婚礼」では、結婚を直前に控えていながら、かつて心を通わせた男の出現によって激しく心が揺さぶられる“花嫁”を演じる。スペインの伝説的劇作家による名作悲劇に、木村達成、須賀健太らと共に挑む早見に、作品への意気込みや見どころ、さらには俳優業への思いを聞いた。

早見あかり (C)エンタメOVO

-1人の女性をめぐり、2人の男性が命を懸けて闘う、愚かしいほどの愛と衝動を描いた本作ですが、最初に脚本を読んでどんなところに魅力を感じましたか。 

 難しい戯曲なのかなと思っていましたが、実際に読んでみるとそんなことはなく、現代の私たちにも共感できるストーリーだと感じました。愛の矢印がいろいろな方向に向いているので複雑な構造に見えてしまうし、現代の愛の表現とは違う伝え方をしていますが、生演奏の音楽や殺陣など、いろいろな要素がある作品になると思うので、初めて観劇される方にも楽しんでいただけると思います。

 -早見さん自身は、本作のどんなところに共感しましたか。

 強い気持ちで人を愛するということ、しゅうとめの子どもを思う気持ち、父親が“花嫁”を思う気持ちはすごく理解できます。それから、私自身、がんじがらめの中で「こうしなさい」と言われて生きるのが苦手なので、最終的に“花嫁”が下す決断には共感できました。きっと、彼女は頭ではその決断をしたらどうなるかは分かっていたと思います。でも、自分の意思に沿って生きていきたいという思いが強かったんだろうなと。 

-早見さんが演じる“花嫁”という役柄はどのようにとらえていますか。

 父に対する自分、女中に対する自分、花婿に対する自分、(花嫁が以前に心を通わせていた)レオナルドに対する自分というように、対峙(たいじ)する人によって人格が違うように感じました。ただ、そのどれもが本当の自分なんだろうと思います。当時の結婚は、幸せを求めて行うという一面がありながらも、一方で女性を縛るものでもありました。だからこそ、そういうところから逃げ出したいという気持ちと、言われた通りに結婚しなければいけないという気持ちと、さまざまな感情が渦巻いていて、その心の動きによっていろいろな人格があるように見えているんだと思います。今(取材当時)はまだ、そんな“花嫁”をどう演じればいいのか分かりませんが、稽古を通して作り上げていくのが楽しみです。

-ところで、早見さんはアイドルから転身して、現在は俳優業をメインに活動をしています。転身しようと考えたきっかけは?

 特に大きなきっかけがあったわけではありませんが、アイドルと並行してお芝居やモデルの仕事をしていたときに、自分はアイドルには向いていないと思ったことと、アイドル以外の活動に力を向けていきたいと思うようになったことがきっかけでした。今、振り返ってみると、その時点で、強い意志で「絶対に俳優になる」と思っていたというわけではないと思います。モデル業もすごく楽しかったですし。ただ、続けていくうちに、自然と俳優って面白いなという思いが強くなり、俳優業がベースになっていったように思います。

-その「俳優が面白い」と感じるのはどんなときですか。

 私、飽き性なんですよ。なので、1クールごとに演じるものが変わって、一緒にお仕事をする人が変わるというのが、毎回新鮮で、楽しいです。以前、舞台に出演したことがなかったときには、同じ共演者たちと、同じ場所で、同じ脚本でお芝居をやり続けるのは私には無理だなと思っていたんです。ですが、周りの方々に「それは違う、絶対にやってみた方がいい」と勧めていただき、実際にやってみたら、本当に違った。3カ月、その作品に向き合う楽しさに気付けました。

-では、俳優として大切にしていることや、これだけはブレずに持っていたいと思っていることは?

 現場に行く前に考え過ぎないことだけは、気をつけています。アイドルを辞めてすぐの頃は、こうしなければいけないと、(役を)自分の中の型にはめて撮影現場に行っていたんですが、そうすると監督とのイメージがズレていて「こうしてほしい」と演出を受けても、すぐに対応することができなかったんです。なので、考え過ぎるのもよくないなと思うようになりました。

-今後の目標は?

 楽しく生きること! 仕事でもプライベートでも、今、自分に必要だと思ったものを拾って、楽しく生きていきたいです。

-では今、一番楽しい瞬間は?

 仕事をしてるときですね(笑)。私は、出産を機に2年ほどお休みを頂いていたのですが、そのときに、改めてお芝居をすることが好きだと気付いたので、今はお仕事をしている時間が楽しくて仕方ありません。こうしてブランクがあっても働けるというのもすごくありがたいです。もちろん、それは家庭が楽しくないということではないですよ。それは全くの別物です。

-働くことで、家庭にもいい影響が出るということはありますよね。

 そうなんです。働くことで、精神のバランスが取れて自分を保てるんだと思います。仕事ももちろん大変なことがたくさんありますが、子育てほど大変なことってないと気付きました。なので、私が今、一番尊敬できる方は専業主婦の方々です。

-では、もしも早見さんが本作の“花嫁”と同じ状況に陥ったとしたら、どうしますか。

 素直な気持ちでいうと、私は元カレに対して情が湧くことがないので、レオナルドに対して「好きだし、嫌い」という感情が生まれないと思います。なので、そもそもこの話にならない(笑)。ですが、レオナルドが新しく出会った男性だとすると、少し話は進むかもしれませんね。実際に、どちらの男性を選ぶかはそのときになってみないと分かりませんが、自分の思いを第一に考えて、そのときに選びたい道を選ぶと思います。なので、劇中で“花嫁”がいろいろなフラストレーションを抱えて、最終的にどうなってもいいやという気持ちで選択した道は理解できます。それは、単純に花婿が好きだから、レオナルドが好きだからというだけではなく、そのときに最善だと思う道を選んじゃないかなと思います。

-改めて、公演を楽しみにしている方にメッセージを。

 見てくださる方によって感じ方も共感できるキャラクターも違うと思います。生演奏や殺陣、歌など見どころもたくさんあるので、ぜひ劇場で見ていただけたらうれしいです。

(取材・文・写真/嶋田真己)

舞台「血の婚礼」

 舞台「血の婚礼」は、9月15日~10月2日に都内・Bunkamuraシアターコクーン、10月15日~16日に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演。
公式サイト https://horipro-stage.jp/stage/chinokonrei2022/