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中村倫也&木下晴香が語る、落ち込んだときの立ち直り方「失敗も前進している証拠」【インタビュー】

 中村倫也が主演するミュージカル「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」が、10月29日から上演される。本作は、天才音楽家であり、聴力を失ってなお音楽への情熱を注ぎ込んだ悲運の人・ベートーベンの生涯を、彼を取り巻く人物たちとの愛と影、喪失と運命を描く。青年期のルートウィヒを演じる中村と、彼のとって大切な存在として描かれる女性マリーを演じる木下晴香に、公演への意気込みや挫折から立ち直る方法などを聞いた。

中村倫也(左)と木下晴香

-脚本を読んで、そして現在稽古をしていて、本作のどんなところに魅力を感じていますか。

中村 大変なところです(笑)。これほどまで熱量高く演じ続けなければならない作品は、ミュージカルに限らずなかなかないと思います。それから、ベートーベンという皆さんご存じの人物の波乱に満ちた人生を間近に感じられることは日常生活ではあまりないことだと思うので、そこが見どころでもあると思います。

木下 先日も稽古場で「ずっとクライマックスなんじゃないかというぐらいの熱量だ」という話をしていたのですが(笑)、私もこれほどまで、エネルギーを放出しているような感覚でせりふを話すのも初めての経験です。私が演じるマリーは、強くて活発で、バイタリティーあふれる女性として描かれていますので、そんなマリーの姿も楽しんでいただけるように頑張ります。

-お二人は、実写映画『アラジン』の吹き替え以来の共演となりますが、お互いの印象は?

中村 『アラジン』のときは、アテレコは別々で行い、その後にイベントや紅白歌合戦に一緒に出演したので、一緒に芝居をしている感覚はなかったんです。なので、今回、晴香の名前を聞いたときはすごく楽しみでした。今、稽古をしていて、新たな発見がたくさんあります。真面目で信頼のおける共演者ですし、やっぱり声が魅力的。清らかで品があるんです。当たり前ですが、今回、ジャスミンのときとはまた違う歌い方で歌われています。こういう能力や個性を持っている方だからいろいろな現場で重宝されるんだなと感じながら稽古しています。僕がサボるために(笑)、どれぐらい晴香に甘えて芝居ができるか、今探っているところです。

木下 うれしいです、ありがとうございます。

中村 じゃあ、次は褒めて。けなしてもいいけど(笑)。

木下 今回、こうしてしっかりお芝居を交わすのが初めてなので、ワクワクドキドキしていました。お稽古ではお芝居の面で教えていただくことばかりです。毎日、ものすごくエネルギーを注いでお稽古されていらっしゃいますよね?

中村 だって、力を入れてやらないと(演出の)河原(雅彦)さんに怒られちゃうから(笑)。稽古にならないって。

木下 そうですね。確かにそうですし、私自身、これまでも一生懸命、お稽古をしてきたつもりなんですけど、どこかで開幕に向けて少しずつ積み上げていく感覚を持っていたので、読み合わせの段階から中村さんが全力で演技をされているのを見て、私もすごく集中して臨めています。それから、『アラジン』のときは、中村さんの声が甘い歌声の印象が強かったのですが、今回はいろいろな声音で歌われているので、そこもぜひ楽しみにしていただきたいです。

-それぞれの役柄を演じる上で意識していることは?

中村 天才という表現が合っているのかは分からないですが、常人とは違うところで葛藤し、もがき、とらわれ、執着している。そうしたさまざまな感情の矢印が彼の中で飛び交っていて、常に混乱の中にある人だと感じました。浮世離れしているし、子どもっぽい部分も持っているのですが、それでも彼なりの人生を全うすべく奮闘していて、矢印は内だけでなく外にも向いています。なので、それだけのエネルギーは常に持って演じなければいけないなと思っています。そうして彼は矢印の中で混乱していますが、僕がイメージしているのは、大きな川の流れのようなものに飲まれている姿です。特に、この芝居の前半では、川の流れに木の葉を落としたら、予測できない川の流れでかき回されるかのような感覚で演じています。

木下 マリーは、そんなベートーベンを引っ張り上げようというぐらいの思い入れを持っている姿をお見せしたいと思っています。ベートーベンが彼女のどんなところに引かれたのかを見ている方に納得していただけるように、エネルギーを上げて演じています。私の持っている雰囲気は「光」か「影」かでいったら「影」だと思うのですが、今回のマリーは、希望や夢といった明るい「光」を確固たるものとして持ち続けている女性です。今作ではそこは意識していきたいと思っています。

-ところで、本作ではベートーベンが聴力を失いながらも音楽へ情熱を注ぐ姿が描かれていますが、お二人は落ち込んだり挫折したりしたとき、どのようにして立ち直りますか。

中村 僕は真正面から向き合います。僕が20代前半の頃、あまり仕事がなかったんです。役者をやっていて仕事がないというのは、魅力や能力がないから求められないということに直結するので、それは僕の人生の中における最大の絶望でした。ですが、逃げずに向き合わなくてはいけないと思ったんです。それで、真剣に向き合って…、それからは建設的な思考で前を向くことができました。それがきっかけかは分かりませんが、常に整理する脳の思考回路が身について、今では落ち込むこと自体が少なくなりました。もちろん、落ち込む要素や失敗などもありますが、それも前進している証拠だと考えれば、むしろ喜ばしいことだと思うようになったんです。それに、人生レベルで考えたら、最後に笑えればいいやと思っているので、小さいことにクヨクヨしなくなりました。

木下 私は、人から言われた言葉でショックを受けたときには、自分の中で頑張ろうと思える言葉に変換して受け止めるようにしています。それでも、すぐに落ち込んでしまうのですが(笑)。そこから私も逃げたくないので、きちんと向き合って、落ち込んでしまうような出来事や言葉をそこから頑張るための“起爆剤”にしたいと思っています。

-公演への意気込みを。

中村 いつも思うのは、面白いと思ってもらえるものを作りたいけれども、それは、結局は自分のため。面白いと思ってもらいたいと思う欲だなと思います。それと同時に、結局、誰が面白いと思わなくても、自分が面白いと思っていればいいという思いもあります。なので、いつも、誰のためでもなく自分のために頑張っていますし、それが皆さんのお口に合えばうれしいなと思いながら作品を送り出しています。今回も、僕らが作ったものが、少しでも見てくださる方々の人生とリンクして、見てよかったと思ってもらえるように、精いっぱい、汗水と鼻水垂らして、体を酷使したいと思います。

木下 私たち演じる側にとっても、お客さまにとっても、これほどエネルギーあふれる濃密な作品にはなかなか出会えないと思います。必死になりながら一生懸命千秋楽まで頑張りますので、ぜひこのエネルギーを劇場に感じていただけたらと思います。

(取材・文/嶋田真己)

ミュージカル「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」

 ミュージカル「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」は、10月29日〜11月13日に、都内・東京芸術劇場プレイハウスほか、大阪、金沢、仙台で上演。
公式サイト https://musical-ludwig.jp