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「鎌倉殿の13人」クライマックスへ! 「義時は危険な存在に」柿澤勇人(源実朝)【「鎌倉殿の13人」インタビュー】

 NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。父・時政(坂東彌十郎)を追放した主人公・北条義時(小栗旬)が、ついに御家人たちのトップである執権に就任。物語はいよいよクライマックスに突入する。その義時と深く関わり、終盤のキーパーソンとなるのが、鎌倉幕府3代将軍・源実朝だ。今までとは一味違う実朝を演じる柿澤勇人が、気になる義時との関係やその人物像、撮影の舞台裏などを語ってくれた。

柿澤勇人(スタイリスト:杉浦優/ヘアメーク:松田蓉子)

-執権に就任し、政治の実権を握った義時は、実朝にとってどんな存在になるのでしょうか。

 立場は自分の方が上ですが、若過ぎる実朝には政(まつりごと)を動かす力がないので、現状では母の政子(小池栄子)や義時に任せるしかありません。ただ、回を追うごとに、当初は信用していた義時の行動と実朝自身の思いが乖離(かいり)していきます。それが原因で事件も起きるため、次第に義時の力を抑えなければ…と考えるようになり、“敵意”とまではいきませんが、“危険な存在”として認識していくことになります。ただし、争いの嫌いな実朝は、力でねじ伏せるのではなく、犠牲者を出さないように、先回りして封じていくようになります。

-義時役の小栗さんの印象はいかがですか。

 主役ですし、義時自体が難しい役なので、普通なら自分のことだけで手いっぱいになってもおかしくありません。でも、小栗さんは座長として視野を広く持ち、周りのキャストやスタッフにも気を配り、気軽に話しかけてくれるんです。おかげで変な緊張感もなく、大河ドラマとは思えないぐらい現場はアットホームな雰囲気なので、すごくありがたいです。すっかりおなじみになったマスクの手書きメッセージも、僕がクランクインしたときは、「実朝ようこそ」と書いてくれて、うれしかったです。

-芝居について小栗さんと相談するようなこともあるのでしょうか。

 大河ドラマでは、毎週月曜日にその週に収録する重要なシーンのリハーサルが行われます。僕は基本的に監督の指示通り動くようにしていますが、時代劇特有の所作があることで、心が動きにくくなることもあるんです。そうしたらある時、僕の表情からそれを察した小栗さんが、「カッキーちょっと一回、言われたこと全部なくして、自分がやりたいことをやってみなよ」と言ってくれたことがあって。役者自身が考えたプラン通りに動く方が魅力的で、芝居が豊かになることを分かっている小栗さんは、そういうことを自分のときだけでなく、気を使って周りの人にも提案してくれるんです。それはすごくありがたいです。

-小栗さんとの芝居で印象に残ったエピソードを教えてください。

 第34回、婚姻のことを尋ねた実朝に対して、義時が勘違いして自分の再婚話をしてしまった場面のやりとりです。夜の場面だったので、2人で話をしながら義時が部屋の明かりをつけて回った後、小栗さんが持っていた火種を僕が扇子で消すくだりがありましたが、あれ、実はアドリブだったんです。小栗さんが手であおいで消そうとしていたんですけど、なかなか消えなかったので、「どうしよう!?」と思って、僕がとっさに手にしていた扇子であおいでしまって(笑)。監督もそのまま使ってくれましたが、あれは面白い瞬間でした。

-ここで改めて、実朝役のオファーを受けたときの感想を聞かせてください。

 実朝のことは今までよく知りませんでしたが、三谷(幸喜/脚本)さんが実朝に強い思い入れを持っていて、「世間に知られていない本当の実朝を描きたい」とおっしゃっていたんです。だから、プレッシャーを感じながらも、この作品の時代考証を担当されている坂井孝一先生の実朝に関する最新の研究をまとめた本や、太宰治の小説『右大臣実朝』、実朝が遺した『金槐和歌集』といった資料を読み込んでいきました。

-『金槐和歌集』といえば、実朝は歌人としても有名ですね。

 和歌に関しては僕も素人ですが、いろいろな本を読み、芸能指導の先生にお話を伺ってみると、実朝は、自分の感情や世の動きを何げない日常の風景に託して歌を詠むことがうまかったそうです。例えば、舟をこぐ漁師を見て、「この平和がずっと続いてほしい」とか、庭先の梅を見て、「自分がいなくなっても忘れないでおくれ」といった感じで。派手か地味かといったら、すごく地味で素朴。父の頼朝や兄の頼家と同じ血を引いているとは思えないぐらい純朴で、ピュアといってもいいかもしれません。そういう性格が歌にも表れているんだなと。これから歌を詠むシーンも出てくるので、楽しみにしていてください。

-当初、「気が弱い」、「おとなしすぎる」といわれながらも、次第に優れた才能を発揮していく政治家としての実朝についてはいかがでしょうか。

 結果的に失敗に終わった宋に渡る船を作った史実について、今までは「気まぐれで船を作って失敗した愚かな将軍」といわれてきました。でも、最新の研究によれば、「国を豊かにする」という目的を持ち、日宋貿易を手始めに、世界と渡り合うことを考えていたともいわれています。自分の家や土地を守ることしか考えず、北条だ、比企だと、家同士でいがみ合う身勝手な御家人たちに囲まれながらも、日本や鎌倉の現状を客観的に見つめ、自分の非力さを謙虚に受け止めた上で、京の後鳥羽上皇と手を組み、自分の理想を実現しようともしていた。そう考えると、実朝はとても先進的な人だったのではないかと思います。

-実朝にとってもう一人重要な人物に、将軍という立場を離れて率直に話ができる和田義盛がいますね。

 以前、義盛が実朝のことを「武衛」と呼ぼうとしたことがありましたが、あれが布石となって、さらに2人の関係が発展していくシーンもあります。これは余談ですが、実朝と義盛の関係って、シェークスピアの『ヘンリー四世』に出てくるハル王子とフォルスタッフにそっくりなんですよね。生真面目で若いハル王子に、大酒飲みで豪快なフォルスタッフが、ちょっと悪い遊びを教える、という感じで。三谷さんがその2人を意識して実朝と義盛を描かれたとおっしゃっていて、僕も(義盛役の横田)栄司さんもすぐに理解ができました。

-実朝と和田義盛の関係においては今後、和田合戦という大きな事件が待っていますが…。

 関係が深まっていく分、和田合戦で義盛を失うのは、実朝にとってとてもつらく悲しい出来事になります。栄司さんとは、これまでも何度か舞台でご一緒させていただき、兄弟役を演じたこともあります。一緒に食事に行って熱い議論を交わしたこともある「芝居ばかなよきお兄ちゃん」という感じの方で、僕も大好きです。言葉にできないほどの壮絶な義盛の最期では、そんな“横田栄司さんの役者魂”を見せつけられました。

(取材・文/井上健一)

源実朝役の柿澤勇人 (C)NHK