-劇中では桜庭さんたちのバンドの演奏に加え、別に撮影された地元伝統の太鼓と踊りが一体になるように編集されていて、高揚感がさらに増していますね。
幾つかの要素が一つになったおかげで、それぞれの思いと同時に、みんなが進むべき方向に一歩踏み出した瞬間が重なり合っていて、すごく感動しました。
-同時にあのシーンからは、「エンターテインメントは、人が生きる上で不可欠なもの」というメッセージも伝わってきました。コロナ禍が始まった頃、エンターテインメントの必要性を問われることもありましたが、その点について考えることはありましたか。
監督の周りにも、やっぱり、お芝居ができない状況で苦しんでいる方がいらっしゃったらしくて、最初にお話しをしたとき、「お芝居って、このコロナ禍で必要なことなのだろうか?」という問いがあったんです。最終的に「それでも、やっていくべきだ」という結論になったんですけど。
-そうでしたか。
いろんな意見はあるでしょうけど、エンタメには、人の気持ちを動かす力があると思うんです。私自身も幼い頃からテレビドラマに心を動かされ、自分の職業ややりたいことをそこから見つけるなど、いろんな影響を受けてきました。ファンの方から「子どもにあの役の名前を付けました」というお手紙を頂いたりするのも、すごくうれしいですし。そんなふうに元気をもらえたり、誰かを思ったり、感情を動かすことができるエンタメってやっぱりすてきだし、それはすごいことだと思います。それもこの作品で伝えたかったことの一つなので、あのシーンは私もグッときましたし、こういう伝え方ができたことはとてもうれしかったです。
-完成した映画を見た感想は?
今の世の中、心に傷を抱えた人は少なくないと思います。それでも時間は過ぎていくし、生きて行かなければいけない。そんな中で、手を差し伸べてくれる隣の人の温かさは、すごく大切なものだなと思いました。ちょっとした温かい言葉を掛けてくれたり、寄り添ってくれたりするだけでも元気になって、前向きな気持ちになれますし…。だから、横にいる人の気遣いのありがたさや、頼ることの大切さをこの映画で思い出していただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/井上健一)