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松山ケンイチ&長澤まさみ、42人を殺した介護士とそれを裁く検事役で初共演 「男女でも、言論での殴り合いが本気でできるんだなと思った」『ロストケア』【インタビュー】

-本作のテーマの一つは、斯波の行為は殺人か救いかということですが、その答えは出さずに問い掛ける形になっています。この点についてどう思いましたか。

松山 救いは、その立場の人の都合でしかないので、何とでもいえると思います。ただ、間違えなくいえるのは、今起きている介護殺人の多くが、決して殺したくて殺したわけではなくて、愛情があるから、愛している人をきちんとみとってあげたいという思いの中で、生じてしまったものだということです。

 介護殺人を犯して刑務所に入った人のインタビューなどを見ていると、やっぱりみんな泣いているんです。「誰が殺したくて殺すんだ」というような、悔しさや悲しさ、怒り、そういうものがすごく混じっているんです。けれども、何とか踏みとどまっている人たちはもっとたくさんいると思います。その人たちに対して 斯波というキャラクターを通して、何かを表現していきたいということは思っていました。

長澤 答えのない答えが正しいのかなと。きれいごとではないので、「こうだったんですよ。終わり」というものではないし、殺してしまった人は、罪を償うために、まだ生き続けなければならない。そうなったときに、その人の人生がそこで終わってしまうわけでもない。その先を考えなければならない。だから、そのことが起きた、判断した、そこで終わりではないということです。結果が出たことが全てではなくて、その先がどうなるかというのが、ずっと続いていくので、答えをこれからも模索し続けることが大切なことのように思います。

-前田哲監督の演出について、何か印象に残ったことがあれば。

松山 (鈴鹿)央士くん事件ですね(笑)。(大友の助手役の椎名が)斯波の供述を聞いて思わず涙してしまうというカットを撮ろうとしたときに、監督がいきなりパソコンを持ってきて、「これ、斯波とお父さんのシーン。これで泣けるよね」と。それで、監督が「ヨーイ、ハイ」って言ったら、央士くんが「すみません。泣けません」と(笑)。僕らは「そりゃそうだよね」と思ったという事件がありました。

 監督には「よくあれで泣けると思いましたね」と言ったのですが、あの重苦しい空気の中でパソコンを出されて…というのは僕でも無理です。監督には、たまに無邪気さからくる天然な部分もあるんです。あそこだけはコメディーになっていました。もちろん本編には映っていませんが。真面目にやっていても、面白い瞬間というのはあります。

長澤 シリアスな作品だからといって、撮影もシュッと進んでいくわけではありません。ハプニングもたくさんあります(笑)。

(取材・文・写真/田中雄二)

(C)2023「ロストケア」製作委員会