-大泉さんも宮藤官九郎さんもたくさんのコメディーをやっています。今回山田監督から演出を受けて、感化されたり、改めてすごいと思ったことはありましたか。
その連続でした。特に情感をあふれさせながら面白くするというところに、『男はつらいよ』とかの世界観を見た気がして、うれしかったです。今回の僕の役は、面白いせりふがあるわけではなくて、追い込まれていく立場みたいなものがおかしかったりするんですけど、監督の作る笑いというのが、僕はすごく好きでした。ある人が、すごく怒っているんだけど、同時にそこに人間のおかしみとか滑稽さが出てくるみたいなところが。
例えば、台本では、宮藤さんの「会社をクビになる」というせりふを、監督が現場で突然「クビを会社になる」に変えてくれと(笑)。これは監督の世界観にしかない面白さです。
監督が脚本を書いて僕が出演した「あにいもうと」(18)でも、自分の妹を妊娠させた相手を河原で怒鳴りつけて「二度と顔見せんな」って追い払うんだけど、その後に、そいつに帰り道を教えるんですよ。「その大通りを曲がって右に出たら、そこを通って帰れ」みたいに(笑)。その感じがたまらなく面白いんです。
そういうのは、今の笑いじゃないのかもしれないけど、それが逆に新鮮だったし、やっぱりそういう笑いはいいなと改めて思うようなところが多かったです。何て面白いことを思いつくんだろうという感じです。監督の発想は、結構ぶっ飛んでいるんです。「怒ってんのに、そんなこと言います?」みたいな。だから怒るシーンが面白いですよね。
-大泉さんは北海道の出身ですが、東京の下町を舞台にした映画やドラマを、どんな思いで見たり、演じたりしていますか。
札幌がどれくらい東京の下町と似ていたのかは分からないけれど、僕は子どもの頃から人情味のあるものを好んで見ていた節はあるんです。だから、山田監督の描く世界観や語り口というものは、自分の中に、子どもの頃からの原体験として入っているんだと思います。子どもの頃から、寅さんのまねをしていたぐらいですから。僕は東京の落語も聴くので、監督の書くせりふには非常になじみがある。子どもの頃に母が見ていた、藤山寛美さんの松竹新喜劇。それも面白がって見ていました。僕が自分で作るものにも、確実にそういうテイストが入っているんです。僕も非常に家族の話が好きなものだから、昔から監督の作る世界観や下町の人情感みたいなものは、僕の中に自然にあったような気がします。なので、そういうものへの憧れもあるかもしれないです。
(取材・文・写真/田中雄二)