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大石静「紫式部は、どんな生い立ちの中で『源氏物語』を書ける人間に成長していったのかを描きたい」 脚本家が2024年の大河ドラマに込めた思い【「光る君へ」インタビュー】

ーそれは知りませんでした。

 第1回に、少年時代の道長が、「俺は怒るのが好きじゃない」と言う場面がありますが、それが道長の政治の基本です。常にバランスをとり、天皇に対しても、その権力が突出しすぎないように自分も力を持ち、過ちをいさめられるようにしていた。ですからこの作品では、横暴な政治家ではなく、みんなの気持ちをすくいとり、巧みにバランスを取りながら政治を行った優れた政治家として道長を描き、平安時代に対する皆さんの認識を改めたいと思っています。

ー道長役の柄本佑さんの印象は?

 元々名優だと思っていましたが、道長役もものすごくハマっていると思います。柄本さんは、台本に書かれた以上にキャラクターを掘り下げ、きちんと計算して演じていらっしゃる。改めて、すごい役者だなと。道長は当初、上昇志向がなく、のんびり過ごしていますが、父や兄など、周囲の人間が次々といなくなり、あっという間に権力の頂点に立つことになります。善人も悪人も自然に演じられる柄本さんが、そういう道長の変化をどのように演じてくださるのか、楽しみにしています。

藤原道長役の柄本佑(写真提供=NHK)

ー貴族だけでなく、劇中には平安時代の市井の人々も登場するようですね。

 当時、貴族と呼ばれる人たちは、千人くらいしかいなかったそうです。当時の日本の人口がどのくらいだったのか、はっきりとはわかりませんが、いずれにしても貴族はほんの一握りでしょう。紫式部も、下級とはいえ、貴族には違いありませんし。その千人だけの世界を描いていては、物語が偏り過ぎてしまいます。そこで、庶民の視点も取り入れようと、まずは「散楽」の一座を設定しました。そこからバランスを考慮し、藤原氏への反逆の心を持つ人物なども登場させることにしました。

ー「源氏物語」は劇中でどのように扱われるのでしょうか。

 「源氏物語」そのものを描くわけではありません。「源氏物語」は、男女の色恋に終始しているように見えながらも、その裏には人生哲学と権勢批判と文学論が込められた一大長篇作品です。そんな奥深い作品を書いたがゆえに、紫式部は欧米で“レディ・ムラサキ”と呼ばれるほど世界的にも高い評価を受け、「ユネスコが選ぶ世界の偉人10人」に、日本人で唯一名を連ねることになりました。私たちが描きたいのは、紫式部が、なぜ、どういう生い立ちの中でそういうものを書ける人間に成長していったのか、というドラマです。その点では、まひろと道長の出会いが、「源氏物語」における光源氏と若紫の出会いをほうふつとさせるように、紫式部の人生に起きた出来事が、後に「源氏物語」に影響したかも…とにおわせるようなちりばめ方はしています。

ー最後に、本作に賭ける意気込みをお聞かせください。

 視聴者の皆さんにとって、おおよその流れがわかっていて「本能寺の変」や「関ヶ原の戦い」といった象徴的な山場がある戦国大河などと違い、「誰にも知られていない物語を作り上げるのは大変では?」と言われることもあります。でも、私たちはそれを逆手にとって勝負していくつもりです。先がわからないからこその面白さを追求し、胸キュンのラブストーリーから骨肉相争う生々しい権力闘争、そして哲学的なテーマまで、多彩な魅力を持つ物語を作り上げ、従来の大河ドラマファンだけでなく、韓流時代劇ラブストーリーのファン、そしてお子さんまで、誰もが続きを観たくなる作品にしようとみんなで頑張っています。ぜひご期待ください。

(左から)大石静氏、吉高由里子、柄本佑(写真提供=NHK)