マリオット 心に響く映画を作ろうと思ったら、正直な映画作りが必要だと思います。それは本当に純粋に文化を描いていて、自然に醸し出されるようなユーモアもあるもの。今回は、まず優れた脚本があった。そしてその神髄を理解してくださる俳優がいたことで、とても人間味にあふれた、リアルな作品作りが達成できたと思います。
井浦 監督が求めていたのは、いわゆる演技らしい演技をせずに、怒ったり興奮したり、どう動いていくかを見せていくことでした。演技をし過ぎた時はもう1回やってみようとなり、僕も監督がこの映画の温度感をどうしたいのかはキャッチしていたので、いつの間にかヒデキの境遇と僕の状態が一つになっていました。言葉が通じない撮影の現場に入っていくという点では、本当にヒデキと同じような状況になって、いつの間にかフィクションではあるけれども、僕の内側のところでは完全なノンフィクションになっていると、一つ一つ体感してみて感じました。
-今回は、英語はもちろん、乗馬や投げ縄をするシーンもありましたね。
井浦 ヒデキは乗馬ができなければ…と、ずっと心配していました。「日本で練習していった方がいいですか」と聞いたら、「身一つで来てくれ」と言われて。それを信じてモンタナに行ってから2日間ぐらい乗馬の練習をしました。時代劇作品でも、天皇や公家の役が多かったので、中々乗馬をする機会がありませんでした。自分で脚本を読んでいる時は、せりふを覚えるしかないんですが、モンタナに行って撮影が始まったら、その景色や環境、一緒に撮影しているクルーたちと過ごしながら、僕はだんだんヒデキになっていけばいいのかなと。監督も「このシーンはヒデキの心が何かを感じていくシーンだよね。だから、あなたはどういうふうに芝居をするんだろう」と言って考えさせてくれる。それでヒデキの心の動きというのは自分でも考えましたが、常に監督が手綱を持ってくれているので、僕は感じたものを心のままにやっていく。それがちょっとずれていたら、監督がいつでも言ってくれる。そういう信頼関係がありました。頭で考え過ぎてやらないということを思っていたので、その環境の中で、戸惑ったら戸惑ったなりに、気持ちを素直に出していけました。
-映画を通じて伝えたかったことと、これからにご覧になる観客に向けて見どころなどをお願いします。
井浦 日本やアメリカだけではなく、世界中の人が何かしら自分と重ね合わせられる物語だと思います。そういうものがしっかりと描かれているので、自分のことを点検できたり、明日への力になったりもすると思います。いろんな人に見ていただきたいですし、きっとこの映画を見ると、温かい気持ちになりながら、自分の大切なものを探してもらえるのではないかと思います。
藤谷 この映画は、セルフチェックのような体験にもなると思いますが、肩の力が抜けるようにできているのと思うので、心配事とかを1回忘れて、見て楽しんで、リラックスできる時間を持っていただけたらいいなと思います。つらいことを考えたくない時に見るにはとてもいい映画だと。あとは、やっぱりモンタナの景色がとてもきれいなので、できれば大画面で見てもらいたいですね。
マリオット フィールグッド・フィルムです。見たあとで気持ちがいいし、楽しめる映画です。映画館の大きなスクリーンで見てこそ、その素晴らしさを享受できるので、ぜひ映画館に足を運んでほしいです。映画館から出た時は、きっとみんながいい気持ちになっているはず。そんな映画です。
(取材・文・写真/田中雄二)