-「女の幸せ」という稲の一連のせりふは、田中さんご自身の生き方と相反するようにも感じますが。
友人たちから「真弓が絶対に言わない言葉だな。お前は絶対に反対側だな」という連絡がいくつもきましたし、自分でもそう思いました。女性は結婚や出産を機に、それまでの人生を諦めなければいけないというのは理不尽だと思いますし、私自身も自分の人生を大事にしてきましたから。「今は時代が違う」と言っても、まだまだ男性優位な部分は多いですし。それを正そうと第一歩を踏み出してくれたトラちゃん(のモデルになった三淵嘉子さん)たちの思いを私たちが受け継ぎ、男女の区別なく、誰もが公平に生きられる社会を、みんなで作っていけたらいいですね。
-花江や寅子と向き合う再登場後の稲の気持ちについて教えてください。
劇中でも語られるように、稲に夫はいたものの、子どもはいなかったことを考えると、子どもの頃から世話してきた花江ちゃんが立派に成長したことは、心からうれしかったに違いありません。自分が育てたような気持ちでいたでしょうし。トラちゃんのことも心配していたので、母親になり、仕事を頑張っているトラちゃんの力になれることを、稲は喜んだはずです。優未ちゃんが慕ってくれることもうれしくて、本当の孫のように思っていたでしょうね。
-伊藤沙莉さんの印象は?
ものすごく細やかな気遣いをされる方です。映像の演技に慣れていない私が、カメラ位置が変わるたびに「どうしたらいいのかな?」と戸惑っていると、「私もわかりませんけど、こうなると思います」と、とても自然に、私が負担に感じないような教え方をしてくださるんです。その上、一番大変なはずなのに、いつも明るく笑っていらっしゃって。沙莉ちゃんの笑顔には、いつも救われます。
-演じていて難しいと感じることはありますか。
「間」の取り方が難しいですね。アニメでも洋画でも、声優は自分で間を作るのではなく、他人のしゃべる間に合わせて声を入れていくのが仕事です。でも、テレビドラマの場合、自分で間をとってせりふを言わなければなりません。私はそれに不慣れなため、うっかり沙莉ちゃんのせりふを食い気味にしゃべってしまったことがあるんです。「失敗した」と思って謝ったら、沙莉ちゃんは「いや、私が遅かったんです」と気遣ってくれて。とてもすてな座長です。
-そのほか、撮影時の印象的なエピソードがあれば教えてください。
岡田将生(星航一役)くんが、私が声を当てているアニメのキャラが大好きだったらしいんです。初めて現場でご一緒したとき、そんなそぶりは全く見せなかったのに、次にメイクルームでお会いしたときにそれがわかって。有名なセリフを言ってあげたら、ものすごく感激してくれたので、私もうれしかったです。
-最後に視聴者の方に向けてメッセージを。
私も毎朝放送を見て、勇気と元気をもらっています。男性、女性問わず、元気になれる作品だと思うので、皆さんにもご覧いただき、ぜひ日々の活力にしていただけたらうれしいです。
(取材・文/井上健一)