-現在の横田雄二を演じる渡辺いっけいさんとの共演はいかがでしたか。
松田 さまざまな経験を経て人生を歩んできたいっけいさんが、「今本当にお芝居が楽しい」とおっしゃっていたのが、すごく印象的で。
樋口 おっしゃっていましたね。
松田 その言葉がうれしく、自分もそう言える俳優になりたいと思いました。さまざまな経験を重ねるにつれ、気持ちも変わってくる中で、「今が一番楽しい」と思える俳優人生は最高だろうなと。まだまだ若輩の僕らにとっては、この世界に入ってよかったと思える言葉で、それを面と向かって言ってくださったことに安堵(あんど)しました。そういう意味で、今の僕が「渡辺いっけいさんはどんな人ですか?」と聞かれたとき、最もふさわしい答えは「希望」です。俳優としての希望を与えてくれる方という意味で。こんなことを言うと、いっけいさんは「違うよ」とおっしゃるかもしれませんが。でも、本当に出会えてよかったです。
樋口 僕にとってもいっけいさんは、「出会えてよかった」と思える大先輩のおひとりです。長年、この世界で生きてきた方なので、お芝居はもちろん、カメラが回ってないときも含め、たくさんのことを学ばせていただきました。特に印象的だったのが、本番を待つ間、いっけいさんがおひとりでお芝居されていたことです。いろんなシチュエーションを想定し、本番でどんな状況にも対応できるように準備していました。数々の現場を経験してきた方ならではのすごみを目の当たりにした瞬間でした。
-タイトルにある「追想」という言葉にはどんな印象をお持ちでしょうか。
松田 演じながら、自分の過去を追想してみようかなという気になりました。というのも、資格も何もない俳優という仕事を僕がここまで続けてこられたのは、応援してくださるファンの皆さんや友人、家族のおかげです。そういう、今まで出会ってきた縁に対する感謝の気持ちが強いので、「追想」という言葉に引かれる部分があるのかもしれません。
樋口 僕は「追想」を「生きてきた人生の宝庫」だと思っています。例えば、新しい作品に入るとき、「こういうせりふ、あのときどう言ったかな?」と振り返って参考にできるのは、追想があればこそ。そういう意味で、「追想」は「引き出し」でもあるのかなと。お芝居に限らず、「こういう人に会ったことあるな。じゃあ、こう言ってみたら、この人はこう答えるかもしれない」と過去の似た人を思い出して会話することは、日常的にありますよね。そんなふうに、あえて言葉にしなくても、無意識のうちに誰もが「追想」しているんじゃないでしょうか。
-それでは最後に、この映画の楽しみ方をお願いします。
樋口 いろんな楽しみ方ができますが、「あのとき、ああすればよかった」と後悔を抱えている方には、特に刺さる映画だと思います。でも、そこにこだわらず、皆さんそれぞれに楽しんでいただければうれしいです。
松田 誰でも日々、心に引っかかるものはあり、それが積み重なると、歩くことがつらくなる瞬間もあると思うんです。そんなとき、曇った心にささやかなスポットライトを当て、少しだけ明るく照らしてくれるような映画じゃないかなと。ぜひ劇場に足を運び、その瞬間をその目で確かめてください。
(取材・文・写真/井上健一)
『追想ジャーニー リエナクト』
10月18日(金)渋谷HUMAXシネマ、池袋シネマ・ロサほか全国公開