-「ウィキッド」の基は映画『オズの魔法使』(39)ですが、ご覧になりましたか。
「ウィキッド」のミュージカルを見た後で見ました。80年以上も前の映画ですけど、あの時代にこのセットで、この演出でやったのがすごいなと。そこに魅力を感じました。今回の映画は最先端の技術とアナログなセットが混ざっていて、昔の『オズの魔法使』ではできなかったようなことをCGなどを織り交ぜてやっていると感じました。
-この映画を見ると、悪い魔女がかわいそうに見えてきます。それからジェンダー、女性差別、人種の問題など、いろんなメッセージも入っています。そこが新しい視点ですね。
この映画はエルファバを通して、自分で自分を認める。誰に何と言われようとも、自分の信じる道や信念を貫く。たとえ世界中から後ろ指をさされても、悪い魔女と言われようとも、自分の信じる正義を貫くことを描いていると思います。だから、自分の思っていることを声に出せなかったり、何かもどかしい気持ちになっている方たちには勇気を届けられる話だと思います。一方、グリンダは、自分の信念や正義を、ちょっと折り曲げて解釈している部分があって、それもまた今を生きる私たちに近いものがあると思います。そんな2人の対照的なところが大好きだし、何よりそれを女性が主役で演じている、作られていることに時代の最先端だと感じます。
-完成版を見た印象を。
どのシーンもすてきで素晴らしかったんですけど、特にほかのミュージカルとは違うと思ったのが、フィエロ(ジョナサン・ベイリー)がソロで歌うシーンの演出で、胸がときめきました。それから、ミュージカル舞台のバージョンだと、エルファバが空を飛んだりするところはありますが、シズ大学の仕掛けはあまりないんです。だからこの映画では『ハリー・ポッター』のような感じもあって、そんなところを見て楽しめるのもすごいと思いました。
-映画の見どころも含めて、これから見る観客や読者に向けて一言お願いします。
最近ミュージカル映画のヒット作が多いと思いますが、この映画のすごいところはメッセージ性だと思います。ミュージカル映画は、華やかさや、歌がすごい、ダンスがすごいという印象で終わってしまうこともあると思いますが、この映画にはそれを超えたメッセージ性があります。例えば、エルファバの緑の肌や話をする動物たちの姿を通して、いろいろな差別的なことや、世の中の課題を抽象的に描いています。おとぎ話の延長線上的な感じで、どんな役にも感情移入できるところが、この映画の素晴らしさだと思うので、見に来ていただけたら、そうしたことを感じ取っていただけると思います。
(取材・文・写真/田中雄二)
