
-普通の大学生でありながら、個性が埋没しない小西と桜田のキャラクターのバランスも絶妙でした。お2人はそれぞれの役に、どのようにアプローチしたのでしょうか。
萩原 小西は、“さえない大学生”というキャラを立てる要素として、常に持ち歩いている“傘”がありました。でも今回は、そういうところからキャラを立てない方がいいのかなと。そこから入ると、どうしても「傘を持った不思議な男の子」という印象が強くなってしまうんです。それはもったいないな、と思って。だから、傘は持っているだけで十分と考え、余計なことをするのは控えました。
河合 桜田の特徴は「お団子頭」ですが、脚本に「お団子頭で武装している」というせりふがなかったら、原作通りの「お団子頭」に寄せるよりも、今の私が持っているものを生かした方が、学生としてのリアリティーは出せるんじゃないかな…と考えていたかもしれません。でも今回は、大九監督のポップな作風や事前の衣装合わせを踏まえると、人物像としても重要だし、キャッチーでいいかも、と思いました。何の変哲もない2人の話だけど、どこかにそういうスパイスをしのばせた方が、面白いんじゃないかなと。
-先ほど「外見から作っていった」というお話もありましたが、2人が距離を縮めるシーンで桜田が着ているベージュのシャツに模様の入ったベストというファッションも印象的です。
河合 ちょっと変わっていますよね。あの服は、衣装の宮本茉莉さんが用意してくださったもので、桜田のファッションは衣装部の皆さんを含め、みんなで作っていった感じです。トレンドを追う女子大生だったら、絶対に選ばないような服だけど、山根ほど強い個性を主張するわけでもなく、ただ、自分のセンスでかわいいと思ったものを身につけている。でも、絶対にマジョリティーではない。そんな服を選ぶことに、自意識はあると思うんです。お化粧もして、わざわざお団子頭にしているくらいですから。その桜田の“外れ具合”が面白かったです。
-お話を伺って、劇中のお二人の魅力の一端が分かった気がします。ところで、初共演の感想はいかがでしたか。
萩原 言葉を届ける能力がものすごく高い方だな、というのが河合さんの印象です。演じている中で、小西を通じて河合さんの言葉がものすごくスムーズに入ってきたんです。それを聞いていたら、言葉には人をあやめる力もあるし、人を元気にする力もある大きなもの、ということを思い出して。大切なことなのに、言葉は日常の中にあまりにも当たり前に存在しているので、忘れてしまっていたんです。河合さんとのお芝居を通じて、そんな大切なことに改めて気付かされました。
河合 私の方こそ、萩原さんとはお芝居する中でまったく壁を感じることがなく、すごくやりやすかったです。どこかに違和感があると、せりふを言うとき、自分の中で言葉がノッキングを起こしたりするんですけど、今回はそういうことが一切なくて。考える間もないほど自然に、小西と桜田でいさせてもらえた感覚がありました。
-それはなぜでしょうか。
河合 多分、萩原さんが「自分を良く見せたい」という意識があまり強くないからなのかなと。私もこのお仕事をしている中で時々、そういう余計な自意識みたいなものが出てしまうことがあるんですけど、お芝居をする萩原さんにはそれを一切感じなくて。それはやっぱり、「小西を演じること」だけに向かっているからなんだろうなと。それがすごく心地よかったですし、完成した映画を見たときも、それが萩原さんの魅力だと感じました。
萩原 僕の方こそ、小西を演じる上では、桜田さんを通じた河合さんの発信ありきだったので、常に助けられていたと言っても過言ではないくらいです。それほど、僕にとっては絶対の存在でした。ご一緒できて本当によかったです。
(取材・文・写真/井上健一)
