「イマドキの沖縄」が詰まった「NeoTrad オキナワ“マチグヮー〈市場〉”」が大阪の阪神梅田本店1階食祭テラスで開催されている。同店で、これまでも沖縄関連の催事に関わってきたという沖縄文化のスペシャリストである三枝克之さんに、今回の催事の見どころを聞いた。
兵庫県西宮市出身の三枝克之さんは、レコード会社や出版社勤務を経て2003年に沖縄に移住した。宜野湾で「カフェユニゾン」を経営するかたわら、文筆家・著作家・編集者として沖縄のグルメ&カルチャーの魅力を発信している。今回の催事は、「ネオトラッド」をコンセプトに組み立てた。「沖縄にも格好良くてすごいお店はあるけれど、期待されている沖縄感もあるじゃないですか。そこを外すと県外の人には響かない。その辺の落としどころとして、ネオトラッドっていうキーワードを出して、ある程度伝統を踏まえつつ、それの進化形を見せているお店、あるいは新しいお店でも、これが新たな沖縄の伝統になるんじゃないかっていうものをセレクトしました」。
一つ目のセレクトは「琉球ノ酒器ト泡盛 オニノウデ」と「陶器 紺野乃芙子」。「泡盛の従来のお酒のイメージとは違って、料理や器とのペアリングの提案が、すごく今っぽい。なおかつ料理もきちんと琉球伝統料理。新しい提案の仕方をしているところがモダンで面白いです」。
お酒や料理に合わせる酒器やお皿を提供しているのは、陶芸家の紺野乃芙子さんだ。大阪出身で沖縄県立芸術大学で学び、沖縄を代表する陶芸家の一人、島武巳さんに師事後、2008年に沖縄県名護市にて作陶を始めた。沖縄北部のやんばる(山原)で土づくりから焼きまでを行っている。催事中は、隠れ家的泡盛バーの泡盛と琉球伝統料理が紺野さんの作る陶器で味わえる。
二つ目は、2022年11月に国際通りにオープンした「いつでも朝ごはん」。ゆし豆腐や具沢山みそ汁、ボロボロジューシー、沖縄そばなど、沖縄ならではの朝ごはんが食べられるお店だ。「ゆし豆腐は固まる前の豆腐で、沖縄のソウルフードなんです。アチコーコー(熱々)のゆし豆腐は、県外ではまず食べられない。ただ、(パックして冷蔵販売を求める)食品衛生法などの縛りで、沖縄でもどんどん減ってきているんですね。その中で“いつでも朝ごはん”は、伝統をもう一回リバイバルさせようとしている」。
電車が走っていない沖縄では、終電の概念がない。「みんな朝4時、5時くらいまで飲む」と教えてくれたのは「いつでも朝ごはん」の吉濱英策さん。「沖縄料理って濃い味が多いんですが、ゆし豆腐とか沖縄そばなどは、あっさりして食べやすいんです。(飲んだ人にとっては)締めを朝食べる感覚」。
三つ目は、宮古豚を使ったポークランチョンミートとソーセージを提供している「宮古サンド&デリ ピクニック」だ。「アメリカ文化から来ているポークランチョンミート(スパム)は沖縄の県民食。ただ僕ら庶民にとっては、添加物の問題とかで、昔からの長寿食からすると真反対なんです。既成のスパムではなくて、おいしくて体にも良いものがあったらいいよねと、ホットドックとかオープンサンドにして、若い人達が食べやすいスタイルで出していらっしゃる」。
母方の実家が170年続く首里の老舗みそ屋の玉那覇味噌醤油だという中西武久さん。このままでは潰れてしまうと東京から移り住んだ。沖縄の隠れた食材などを扱うネットショップの運営を経て、みそを買ってもらうには「食べてもらうのが一番」だと食堂「味噌めしや まるたま」を始めた。食べることが好きという中西さん。「いわゆる缶詰のスパムは添加物がいっぱい入っていて大嫌いだった」というが、「ポーク卵おにぎり」に行列ができるほど観光客に人気なのを見て、自分でスパムを作ることにした。知り合いの後輩に生産してもらい、2023年5月にお店をオープンしたばかりだ。
四つ目は、昭和25年に開設された牧志公設市場にある「市場の古本屋ウララ」。沖縄の特徴の一つに、県内発行の本の多さを挙げられる。こうした沖縄発行の「県産本」をはじめ、沖縄に関する本を集めた小さな書店だ。「沖縄の独立系書店のはしり。場所が、牧志公設市場っていう一番有名なマチグヮー(市場)の真ん前にあるんです。沖縄の伝統的な商売をされているところの真ん中ということです」。
店主の宇田智子さんは、もともと東京の大手書店に勤めていた。支店で2、3年勤務するはずがそのまま定住。エッセイストとしても活躍しており、食祭テラスのトークショーに登場予定だ。
最後は、三枝さん自身が営む「カフェユニゾン」。「ネオトラッドというテーマ自体が、うちの店のテーマとほぼ重なるんです。仕事柄、沖縄の伝統文化を紹介することが多いので、いかに沖縄らしさをカフェならではの形で提案するかということをやっています」。
三枝さんが感じている沖縄は、単なる日本の中の一つの島ではなく、台湾や東南アジア、中国の文化とつながりのある、広がりを持つエリアだという。「沖縄と台湾では、共通しているところがすごくあるなと。例えば鶏飯(ケーファン)はもともと沖縄や奄美の伝統料理で、お茶漬けみたいに食べるんです。台湾に鶏肉飯(ジーローファン)という丼ごはんがあって、南島鶏飯は、それとミックスしたような今風のオンザライスのメニューにしました」。
スイーツの提案もユニークだ。豆乳プリンにタピオカやフルーツ、小豆などをトッピングした台湾の国民的スイーツ豆花(トウファ)のイメージを借用した。「沖縄にジーマミー豆腐っていう伝統料理があるんですけど、おやつなのか、おかずなのか、よく分からない立ち位置の食べ物なんです。それを台湾の豆花風にすることで、スイーツに振り切った盛り付けにしました」。
阪神梅田本店1階食祭テラス「NeoTrad オキナワ“マチグヮー〈市場〉”」は6日(月)まで。