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食品の公正価格とは 鬼頭弥生 農学博士 連載「口福の源」食品の公正価格とは

食品価格の公正さを判断できるか(筆者画)

 コメの価格高騰が止まらず、備蓄米の放出が始まった。また、鶏卵価格は現在、鳥インフルエンザの発生が相次ぎ供給不足となっている影響で高止まりしている。いずれも、需給関係に基づく価格高騰である。他方これまでは、生産費が上昇しても価格になかなか転嫁できず、採算割れするコメ農家が多くあったし、採卵鶏農家の場合は、大規模化して費用を抑えられる農家しか存続できない状況にあった。現在の市場においては、生産費の上昇は価格に反映されにくいのに、需給の変動によっては価格がたやすく変動する。それが如実に現れている。

 農産物や食品の適正な価格、公正な価格とは何だろうか。さまざまな視点から定義され得るが、フードシステムの存続の観点からみた新山陽子・京都大学名誉教授によれば「競争的な市場で形成され、かつ各段階の生産や事業が継続できる価格」「少なくとも労働報酬を含むコストがカバーできる価格」と捉えることができる。こうした公正な価格の実現に向けて、フランスなどでは制度上の取り組みが進められており、日本においても取り組みが期待される。ただそこでは、消費者の公正価格に対する認識と支持も欠かせない。

 消費の場面では、安い価格が礼賛される傾向にあるが、私たち消費者は、価格をいかに判断しているのだろうか。

 私たちは商品の価格を前にした時、自分自身の記憶の中にある価格や、買い物の環境で目にする価格情報(隣の類似商品の価格や、値引き前価格として表示される価格など)を参照して、目の前の商品の価格の妥当性を相対的に判断している。参照する価格に比べて、目の前の販売価格が高ければ割高に感じ、安ければ割安に感じる。記憶の中にある価格としては、通常価格や期待価格が参照されることが多い。

 米ベントレー大学のLan Xia博士らが2004年に発表した論文に基づけば、価格の公正さもまた、何らかの価格や情報を参照し比較することを通じて相対的に判断される。この時「公正」の判断よりも「不公正」であるという判断のほうが明確かつ具体的で、当人もその理由をよく認識している。そしてその判断は、提示された価格設定の理由や、売り手と買い手の間の関係性、規範や知識によって影響を受けるという。

 私たち消費者が公正価格を認識するためには、参照できるコストの情報や価格設定理由が示されることが有効なのだが、個々の商品についてそれを示すことは現実的ではない。現実的には、公正な取引・値決めを促す仕組みを整備し、その内容に関する情報提供をすることが有効であろう。ただ、公正価格を認識し評価することと、その公正価格を受け入れて購買できるかは、別問題である。そこでは、全ての人が公正な取引に基づいた公正価格の良質な食品に経済的にアクセスできる環境を実現すること、そうした基盤も併せて必要と考えられる。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.12からの転載】