大同生命保険(大阪市)は全国の中小企業経営者を対象に、景況感に加えさまざまなテーマを設定したアンケート調査「大同生命サーベイ」を2015年10月から毎月実施している。2026年3月度は、「価格転嫁に向けた交渉の状況」をテーマにすえた調査を行い、結果をこのほど公表した。調査は全国の5167社の中小企業経営者を対象に、3月2日~27日にかけて、訪問、またはZoom面談で行った
全体として景況感については、「現在の業況」(業況DI)がマイナス11.7ポイント(前月差マイナス0.8ポイント)、「将来の見通し」(将来DI)もマイナス0.4ポイント(前月差マイナス3.2ポイント)と、ともに前月に続き悪化した。
■「仕入れ価格」が最も上昇、約半数が「価格転嫁」に取り組み
直近1年間で「自社で上昇したと感じるコスト」は、「仕入れ価格(商品・資材全般)」(68%)と回答した経営者が最も多かった。その中で「最も負担が大きいコスト」は「仕入れ価格」(38%)」が最多で、 「原材料費」(19%)、「人件費」(19%)と続いた。

主な販売先への価格交渉については、約5割の企業が、「交渉した」と回答。一方で、「交渉を依頼したが応じてもらえない」(6%)、「関係悪化を懸念し交渉を 行っていない」(13%)と、計2割弱が「交渉できていない」と回答した。
コスト上昇に見合う分が自社商品価格に「ほぼ転嫁できている」と回答した企業は2割弱にとどまり、8割以上の企業が「十分に転嫁できていない」と回答した。特に、「サービス業」では、「あまり転嫁できていない」(30%)、「まったく転嫁できていない」(16%)を合わせて、5割弱(46%)が「転嫁できていない」と回答。他業種と比較して価格転嫁が遅れている様子が浮かび上がった。
■継続的な取り組みを「販売先の理解」につなげる
価格引き上げを実施した経営者1687人に「引き上げができた理由」(複数回答)をたずねたところ、最多は、「販売先での理解が進んでいるため」(48%)。そのほか、「日頃から見積もりを提出し、費目内訳をきちんと説明していた」(29%)、「日頃から継続的に価格交渉を行っていた」(29%)、「交渉前に高騰の原因となる費目のデータや見積への反映など交渉材料を準備した」(27%)という回答が多かった。
価格交渉に関連しては、下請け業者を守るための「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)が改正され、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法」(取適法)として新たに施行された。これにより、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大され、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化された。代金に関する協議に応じなかったり、必要な説明・情報提供をしないで一方的に代金額を決定したりすることが禁止されている。この内容について、「内容までよく知っている」(17%)という回答は2割に満たず、「全く知らない」(34%)が3割を超えた。
■経営者たちの課題と工夫
経営者たちからは、価格転嫁に取り組む課題として、「競争相手が多く価格交渉できない。価格交渉を行った結果、取引終了となった話も聞く」(製造業・三重県)、「物販は仕入れ価格の上昇に合わせ販売価格を引き上げやすいが、物流コスト分は顧客や外注先との交渉が難しい」(卸売業・北海道)などの課題が寄せられた。
取引先との交渉の工夫としては、「原材料費・輸送費・人件費などの上昇率を具体的に提示、交渉した」(建設業・北海道)、「振込手数料の負担を交渉して理解いただいた。小さな金額でも、全ての取引先と行えば、大きなコストとなるため、こうした日常的なコストも見直すことが必要」(その他・東京都)、「毎月原価計算を行っているので原価の上がり幅をすぐに計算できる。これによって最低賃金の上昇金額の予測を早い段階から行い事前に価格転嫁してもらうよう交渉していた」(情報通信業・愛知県)など。
「普段から、原材料が上がったタイミングで見積りやデータの提出を行い、丁寧に説明を行い、取引先との関係性を良好に保つことが重要」(小売業・奈良県)、「競合他社との価格競争との兼合いが難しいが、コスト構造の実状について開示して信頼を得られれば交渉に応じてもらえる」(運輸業・秋田県)という声もあった。
■「継続的な価格見直しには取引先等の理解が鍵」
今回の調査で、価格転嫁が中小企業にも徐々に広がる中、多くの企業が十分な価格の引き上げには至っていないことが確認された。特にサービス業では価格転嫁の遅れが目立ち、人件費や光熱費の上昇が重荷となっている様子がうかがえた。
調査を監修した神戸大学経済経営研究所の柴本昌彦教授は、価格交渉が進まない背景に、交渉に応じてもらえないケースだけでなく、関係悪化への懸念から交渉自体を控える企業が一定数あることにも着目。また、十分な価格引き上げを実現するためには、販売先の理解に加え、自社の商品・サービスの独自性や、交渉材料の準備、継続的な価格交渉といった点が重要であることを指摘している。
柴本教授は、「今後、価格見直しを進めるには、コスト上昇の根拠を丁寧に示すことに加え、自社の商品やサービスの価値を相手にしっかり理解してもらうことが重要です。あわせて、価格交渉を後押しする制度の周知や、相談・情報提供などのサポートを通じて、中小企業が適切に価格見直しを進めやすい環境を整えていくことも大切です。無理なコスト吸収を続けるのではなく、取引先や顧客の理解を得ながら、段階的・継続的に価格を見直していくことが、持続的な経営につながると考えられます」とアドバイスを送っている。










