2026年は日本とフィリピンが国交正常化して70周年。5月にはフィリピンからマルコス大統領が国賓として来日し、高市早苗首相と会談するなど関係を強化した。実は日比関係は1956(昭和31)年に政府間で国交が正常化する前に、民間外交としてスタートしている。
1949(昭和24)年に創設した公益社団法人東京青年会議所(東京都千代田区、外川隆司理事長)は、国際青年会議所(JCI)という組織を通じてフィリピンと民間交流を行っていた。東京青年会議所の海外との交流は、1989年に韓国(JCIソウル)と姉妹提携をしたのをはじめ、フィリピン、台湾、シンガポールなど幅を広げ、活発な交流を行っている。その中から、東京で開催されたアジア地域のJC国際会議で来日した JCI Manila(JCIマニラ) のエディソン・ケイ理事長と、連携して支援活動を展開する東京青年会議所の外川隆司理事長に民間交流の意義について話を聞いた。
▽貧困地区の子ども、「未来がある」と認識
JCIマニラは戦後間もない1947年に設立。現在650人以上のメンバーがいて、年間400件以上の活動を展開している。東京青年会議所とは2000年に姉妹提携を締結。両組織の交流で最も効果を上げているプロジェクトに「スモーキーマウンテンベースボールプロジェクト(SMBP)」がある。

エディソン理事長は「スモーキーマウンテン地区は、きれいな水もなく電気も通っていないマニラで最も貧困が深刻な地域。子どもたちも学校に通うことができず、捨てられたごみの中で生活している」と話す。2012年にスタートしたSMBPは、日本の元プロ野球選手や日本人ボランティアが現地を訪問し、野球教室や交流会を行い、現在も続いている。
エディソン氏は「子どもたちは野球を通じて規律や時間を守ることなどを覚え、何より『自分たちにも未来がある』という考えが芽生えることが大きい」と意義を強調する。野球で優秀な子どもは奨学金をもらって高校や大学に進むケースもあり、SMBP運営メンバーによると、これまでに111人(2025年1月時点)のSMBP卒業生が奨学金を獲得し、高校・大学に進学している。

当初は日本プロ野球の名球会が協力するボランティアだったが、軌道に乗った現在は、野球を通じた国際交流・教育・支援活動を行う運営団体が主催。東京青年会議所とJCIマニラが協力する形で活動が続いている。エディソン氏は「SMBPがなければ、子どもたちは犯罪に手を染めたり、薬物の問題に巻き込まれたりすることもあるため、このプロジェクトは本当にありがたい」と強調した。

東京青年会議所の外川隆司理事長は、今年5月に行われたSMBPを現地で視察、あらためてプロジェクトの意義を実感したという。「当初はスラム街の子どもたちだけだったが、参加者が広がって多くの小中高校生が本格的に野球を楽しんでいた。奨学金制度もあり、教育システムとして根付いていると感じた」と話す。
フィリピンではバスケットボールが人気スポーツで、野球の認知度はさほどでもないが、SMBPの活動を受け各地の学校に野球部ができているという。
▽教育施設も支援
スモーキーマウンテンでは、東京青年会議所の支援で2025年に教育施設「ラーニングセンター」を建設。就学していなかった子どもたちがパソコンなどを使って学べる施設を提供した。エディソン氏は「これで何千人もの子どもたちの識字能力が高まる。東京青年会議所には本当に感謝している」と話した。
外川理事長は、ラーニングセンターについて「SMBPを受けて次の事業として取り組んだ。さまざまな寄付をいただき、学校ができ子どもたちが日々学んでいる」と成果を語った。


▽「レモネードスタンド啓発運動」
JCIマニラとしての2026年最大のプロジェクトは「小児がん早期発見」だという。エディソン氏は「フィリピンなど途上国の小児がんの生存率は20%程度、先進国の80%程度と大きな差がある。早期に発見できれば生存率が高まるが、フィリピンでは、がん検診というものを知らない人も多い」と話し、東京青年会議所と連携して啓発活動を展開する方針だ。
東京青年会議所は、小児がんプロジェクトを日本・フィリピン国交正常化70周年記念事業と位置づけ、この課題に着手。4月に東京でフォーラム「小児がんを救え!笑顔を創る国際協働」を開催したほか、8月にはフィリピンで小児がんの支援活動の一環として「レモネードスタンド啓発運動」を実施し、現地の子どもたちにレモネードを無料で提供し、検査日程のカレンダーや、がんチェックリストの配布などを通じて啓蒙する。

外川理事長は「小児がんは早期発見すれば治る可能性が高まる。今後は病院の紹介や、寄付支援を活用し、検査キットの配布といったJCIマニラが行う活動を支援していきたい」と強調した。
▽「共創ラボ」で課題解決
政府間の国交より歴史が古い日本とフィリピンの民間交流。民間団体同士の交流にどのような意義があるのだろうか。エディソン氏は話す。「JCIマニラや東京青年会議所という二つの単なる組織に過ぎないとしても、ささやかながら独自の方法で関係を深めれば、10年、20年たつにつれて両国はよりよい関係になっていくでしょう」。
外川理事長は「共創ラボ」という言葉を挙げた。「社会を変えるには東京青年会議所だけが主催する活動では解決できない。JCIという国際ネットワークの中で、ほかの組織も主人公となって共に主催する“共催”で目的を達成するというプロジェクトが『共創ラボ』だ」。

▽2国間から世界へ
東京青年会議所が手がける民間外交について、外川理事長は「各国で抱えるさまざまな問題について、政府や自治体、あるいは企業が解決に取り組んでいますが、その中で利害が絡むなどして“手が届きにくい”“進めにくい”といったところを東京青年会議所がカバーすることができる」と指摘。「東京青年会議所には利害関係が一切ない。国際組織のJCIも国同士の政治のような駆け引きもない中で取り組むことができるのが大きな特徴だ」と強調した。
今年11月にはフィリピン・クラークでJCI世界会議が開催されるという。その席では東京青年会議所とJCIマニラが取り組んでいる小児がん早期発見プロジェクトの紹介ができるよう計画しているという。2国間で展開している小児がんプロジェクトが世界に広がっていくチャンスでもある。







