解決策が急がれる海洋プラスチック問題。レジ袋や商品を入れるプラスチック容器などは身近な課題として意識しやすいが、野球・サッカーなどのスポーツ施設も環境に与える影響は少なくない。日本で大興奮を巻き起こしているワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。その舞台となっているドーム球場などで使用されているのが、ポリエチレンなどを原料とする人工芝だ。
「人工芝と海洋プラスチックゴミにどのような関係があるの?」と思った人もいるだろう。人工芝は、スポーツ施設をはじめ、家庭のベランダや店舗のテラスなどで使用されていて、ちぎれた芝(パイル)が下水道などを通して海に流出しているといわれている。手入れが簡単で耐久性がある人工芝だが、プラスチックを原料としているため、どうしても環境に与える負荷は避けられない。そこでスポーツ用品大手のミズノ(大阪市)は、野球専用人工芝の新商品「MS CRAFT BASEBALL TURF-V」(以下、TURF-V)を開発。今月オープン戦がスタートした2023年シーズンから、埼玉西武ライオンズ(以下、西武)の本拠地「ベルーナドーム」で使用されている。
耐久性が従来の1.7倍になったTURF-V(ターフブイ)は、より長期間の使用が可能になったほか、人工芝由来のマイクロプラスチックの発生を抑制する効果が期待できるという。また、屋外で使用した場合に懸念される太陽光の照り返しも従来比で48%減少。景観とともに、観戦時の見やすさをアップさせた。
一方、環境に優しい商品だったとしても、選手の体に負荷をかけたり、ボールの軌道・バウンドに悪影響を与えたりするものはスポーツ用品・施設としては成り立たない。ミズノが一番苦労した点は、芝(パイル)の強度を上げつつも野球の“プレー感”を損なわない商品作り。通常、人工芝が新しくなるだけでもプレーに何らかの変化を与えるが、新商品ではパイルのしなやかさや厚みを改良。プレーヤーの体を考慮して、着地時にかかとにかかる衝撃を11%減らした。今月上旬に行われたシーズン初の練習においても、西武選手からの反応は良好だった。
そして、環境に優しいというTURF-Vの特徴も、目に見える形で表れている。天然芝同様、人工芝でプレーするとユニフォームのズボンやシューズにパイルや充塡(じゅうてん)材が付着。ズボンやシューズにくっついたプラスチック製のパイルがほかの場所に運ばれることによって、マイクロプラスチックは拡散されていく。新しい人工芝の感想を聞かれた西武の栗山巧選手は、「(ズボンにパイルが)付いていない!」と驚いた様子を見せていた。
今後スポーツを観戦する時は、その競技を楽しむことはもちろんのこと、施設やユニフォームなどが環境にどのような影響を与えているかについても、少し考えてみてはどうだろうか。