35年前、高知県室戸市を皮切りに日本で初めて取水が始まった海洋深層水。多くの飲料、食品、化粧品などが商品化されたが、さらに現在は陸上養殖や発電などのエネルギー分野での活用が進み、日本発の新たなテクノロジーになる可能性も大きいという。海洋深層水利用学会(DOWAS)利用促進委員会の山田勝久委員長(株式会社ディーエイチシー)に聞いた。
―――世界の海域を無限に流れる深層水ですが、日本は研究が進んでいるんですか。
山田:海洋深層水の研究で日本は最先端のパイオニアです。深層水が取水できる深海(深さ200m以下)に急に落ち込んでいる陸地は、世界でも日本列島以外に余りなく、例えば大きな大陸の中国や米国にはありません。日本は深層水が世界でも非常に利用しやすい身近なところに存在するのです。
――取水が始まった当初は飲食料品などの商品化が多かったですが、今は、エネルギーや海洋温度差発電(OTEC)の取り組みなども始まっています。
山田:国連の持続可能な開発目標(SDGs)が叫ばれるようになり、海洋深層水がそもそもSDGsに沿った公的な自然資源ではないかと、学会の方も考え始めました。亜熱帯地域の沖縄県・久米島は表面水温が高く、深層水との温度差を利用したOTECが進んでいます。ただ、OTECは年間通して表面水温と深層水に20度の差がないと経済的でなく、高知県・室戸などの温帯地域では発電はできないものの、空調に使ったり、海産物の養殖に使ったりしています。
また、富山県・入善町では、パックご飯の工場内が暑くなるのを冷温の海洋深層水で冷やし、冷やすことで温度が上がり適度な温かさになった深層水を魚介類の養殖に活用。これで、電気代や二酸化炭素(CO2)が大幅に削減できる。取水地から近い地域で、そういうリアルモデルをどんどん作ってもらったらと思います。
――海洋温度差発電は国際協力機構(JICA)などが、太平洋の島しょ国でも導入に向けた調査を進めています。日本の新しい技術となる可能性が大きいのでしょうか。
山田:そうした島しょ国にも、陸地からすぐ深くなる海があり、エネルギーは外国依存です。外からエネルギーが入ってこなくなると、たちまち困りますが、観光業を中心に発展しようとすると、自前で今さら火力発電を作ったり、汚したりはしたくない。島しょ国は亜熱帯から熱帯で、海洋深層水の温度差発電が最もクリーンなエネルギーが得られる近道として注目されています。
深層水はSDGsになぞらえた利用ができる唯一の自然エネルギーとして、日本を救う可能性があり、技術確立ができれば、その技術をユニットとして海外に輸出できる。単に商業的な部分だけじゃなくて、海外の困っている国を救う可能性があると思います。
――日本政府の深層水活用に対する姿勢は。
山田:政府が策定する海洋基本計画で、第3期となる昨年に初めて「海洋深層水」の文言が入りました。われわれの学会も、積極的に海洋基本法にのっとった計画をやっていこうとしています。今年10月に室戸市で行われた初めての「海洋深層水サミット」も、高知県側がその流れをくんで開催されました。
――海洋深層水は、日々の生活でも非常に身近ですね。
山田:全国のスーパーマーケットで売られている海ブドウは、ほとんど海洋深層水で育てられます。また、飲み屋さんにも深層水で活魚輸送された魚があります。そして、経済性。電気代がどんどん高くなっている中、海洋深層水を活用したら使用電力を減らすことができる。(広い意味での実用化を)どうしていくかっていうのは次の問題になりますが、海洋深層水の大きな恩恵がわかりやすいかと思います。