未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」の新連載「弁当の日の卒業生」。「弁当の日」、その日は買い出しから片付けまで全部一人で。2001年に香川県の小学校で始まった食育活動は、約25年を経て全国に広がっています。その提唱者である竹下和男氏が「弁当の日」の卒業生の今をつづります。
▼「自炊をしたくて寮を出た」
今回は電話取材ではありません。10月18日のドキュメンタリー映画「弁当の日」の上映会に、「第3回集まれ!全国の弁当の日応援団in高松」(応援団の交流会)とうどんツアーもセットにした大イベントの準備中に、A君がわざわざ私に会いに来てくれたのです。A君は、現在は東京在住です。とにかく仕事が楽しくてやりがいがあるので、結婚もまだ真剣には考えていません。上記の上映会の準備のために開催した夜の試写会に、「一泊二日で高松の支社に来たから」と参加してくれたのです。
6、7年前の元旦に、綾川町内の「新春六社参り」に参加していると声をかけてくれました。「校長先生のおかげで、僕は今健康でいられます。大阪の大学に行きましたが、一カ月で体調を崩してしまいました。毎日外食をしていることが原因だと思ったので、自炊を始めると体調は戻りました。それ以来、卒業するまでずっと自炊生活でした。今は就職して松山にいますがやっぱり自炊生活です。苦もなく自炊生活ができるのは“弁当の日”のおかげです。小学生のうちに自分一人で弁当を作るなんてことを、よくぞ何度もやらせてくれました」
綾川町内の恒例行事で、六社を徒歩めぐる全長約9kmのコースです。寺社ごとに地元の方々による接待があり、お神酒、ミカン、お汁粉、焼き鳥などをいただきつつの食べ歩き2時間半です。私はそれに加えて、自分の健康と地元の「弁当の日情報」の収集が目的です。
私の講演に使用される写真に登場するA君の話を聞きながら、この時は特別にうれしい六社参りになりました。そして先月の試写会時の再会でした。数日前にお父さんとお会いしたら「あいつは東京本社に栄転して寮生活をしていたのに、自炊するために寮を出ました」と笑っておられました。試写会の後、A君は参加者に近況を聞かせてくれました。
「松山時代の同僚も同じ東京の寮に入ったけれど、結婚をして寮を出ました。その彼が僕の近所に住んでいて、子どももできているんですが、そいつの家に夕食を作りに行くことが珍しくないんです。僕もうれしいから、声をかけてくれるといそいそと料理をしに出かけています」
たぶん彼は、「弁当の日」卒業生の中でも屈指の料理オタクだと思います。東京で交流会が開催されるときは、彼が参加可能な日に日程を調整しようと思っています。
竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。
#はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。










