新型コロナが国内で流行し始めた2020年のダイヤモンドプリンセスの事案はクルーズに過分な恐怖心をもたらした。感染症対策に一区切りがつき観光需要が回復し始めた今、瀬戸内に小型船によるクルーズ文化を根付かせ地域振興に結び付けたい。

小型船クルーズ
瀬戸内海は中国地方と四国地方に挟まれた海域で700以上の島々からなり、穏やかな気候、美しい自然、おいしい食材、長い歴史と豊かな文化を有しており古くから日本人に親しまれてきた。近年はサイクリングや瀬戸内芸術祭などのアート活動も盛んであり、最近では海外からも注目されつつある。こうした瀬戸内の高い観光ポテンシャルと近年増加するクルーズ需要を有効に活用することで、観光産業が瀬戸内の地域振興に大きなインパクトを与えることが期待される。
多島美、橋梁(きょうりょう)美と称賛される瀬戸内だが、島や狭窄(きょうさく)部が多いゆえに船舶の航行には制限があり、大型クルーズ船への対応は難しくクルーズ需要を十分に取り込むことはできていない。瀬戸内の真の魅力に接し地域振興を目指すためには、瀬戸内の島々に人を呼び込むアクセスを改善することが必要であり、「小型船」の活用がカギとなる。この提言では、瀬戸内ならではの小型船を活用した機動性の高いクルーズスタイルを普及させることで地域活性化を推進するための施策について述べる。
3つの提言
①島たびプラットフォーム
瀬戸内には数多くの航路が比較的規模の小さな船会社により運航されており、既存の航路は本土と島を結ぶ生活航路中心であるがゆえに島々の観光には使いづらい設定となっている。この課題を解決する方策が第一の提言「島たびプラットフォーム」である。
この提言は、民間船会社が予備船などの活用可能な小型船と人員を提供し、旅行会社が旅行パッケージの企画力を、地元をよく知る自治体が観光コンテンツを、そして港湾管理者が係船設備や岸壁の利用機会を提供して、短時間で多くの島めぐりが可能なカジュアル・チャーター・クルーズを提供する事業マッチング・プラットフォームを立ち上げるものである。これによりそれぞれが持つ資産やノウハウを効率よく有効に活用して柔軟な旅行パッケージを提供する仕組みを作る。
②せとうちプラチナクルーズ
第二の提言は、島々をめぐる専用の小型クルーズ船を地域で建造し運航するものである。船としては1千トンクラスで乗客100人ほどが乗船して宿泊と簡単な食事ができる設備を持つものを想定している。また電動カートや自転車、ミニバンなどを船内に装備することで島々の未成熟な2次交通にも対応し、食材や物産を地元から調達し消費するローカルフレンドリーな旅のスタイルを提供する。
地域振興という面からは、地域外から瀬戸内を寄港地としてやってくるクルーズ船を待つのではなく、小型でも瀬戸内を母港としてめぐるクルーズ船を瀬戸内地域で船を建造、保有し運航して地域の雇用や消費の拡大をもたらすことが重要である。
③にぎわいみなとまちづくり
3番目の提言は、瀬戸内の島々の港とその後背地の整備にかかわるものである。現状の島々の港の景観は観光で訪れた人には魅力に乏しく、来訪者に必要な施設も十分とは言えない。そこに居住する人が求める港の機能と外部からの来訪者のニーズとを整理し、生活施設・住民向けの公共施設の再配置や集約とともに観光客向けの施設との融合を図る。またクルーズ船の来訪者に対する居住者のおもてなしの文化を醸成することで、互いにウィンウィンの関係を築くことが整備効果を一過性に終わらせないために重要だと考える。
もう一つの論点は景観にかかわる課題である。広域連携や条例化といった手法を通じて、商業看板など工作物の在り方や瀬戸内のみなとの街並みの統一感など海から見える景観を誘導していくことを提案したい。
今後の展開
瀬戸内ではこれまでも遊休船を活用したチャーター商品の販売や宿泊可能なラグジュアリー小型船舶の運用などが試みられているが、これらは単独の民間企業で起業していることでいまひとつ広がりに欠けている。規制や手続きなどの制約、財源や採算性の障害、地域産業の変遷や人員不足など、単独の企業では乗り越えられない障壁を複数の企業あるいは官と民が力を合わせることで克服していく必要がある。2025年には大阪・関西万博開催が予定されており、瀬戸内海の魅力を発信する絶好の機会にすべきである。SETOUCHIがブランドとして広く認知され、小型船によるクルーズ文化が地域に根付いて地域振興に貢献することが望まれる。
【筆者】
五洋建設株式会社顧問、
日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)理事、
JAPIC国土・未来プロジェクト委員会委員
越智 修(おち・おさむ)
(KyodoWeekly8月15/22日号から転載)