【連載コラム 国内外の図書館をめぐる-2-】 街探訪 スイス、バーゼルを歩く

 スイス・ザンクト・ガレン修道院の図書館と大聖堂の前には、広い芝生の庭がある。周辺の店でサンドイッチを買って、散策に疲れた足を休めつつ、芝生に座って軽食休憩。図書館に飾られていたホルバインの絵画、「墓の中の死せるキリスト」の静かで不思議な威厳を思い出すと、バーゼル行きのチケットを買いたくなるはず。実物を間近に見ることができるのが、スイス北西部、ライン川沿いにあるバーゼルという街の市立美術館だ。

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バーゼルの大聖堂

 ザンクト・ガレンからチューリッヒ経由の列車に乗って約2時間と少々。街中をトラムが縦横に走っており、どこに行くにも足を気にせずに済む、旅行者にとっては動きやすい街だ。

 市立美術館は1671年に一般に公開された、ヨーロッパ最古の公共美術館。15世紀のコンラート・ヴィッツ、メムリンクから、なじみ深いゴッホ、ゴーギャン、クールベ、ドラクロワ、モネ、ドガ、20世紀のキュビズム、そしてポップアートに至るまで、約700年にわたるさまざまなジャンルの作品群に出会える。

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バーゼル市立美術館

 そしてお目当てのハンス・ホルバイン。ザンクト・ガレン修道院図書館の天井画に近い位置に掲げられていたものより、やはり間近に見るホンモノは迫力がある。ほぼ等身大の、棺に横たわるキリスト。鑑賞者は、宗教的な印象を排して描かれた”遺体“と対峙(たいじ)する。ドストエフスキーが衝撃を受け、とりこになったというこの作品が、ザンクト・ガレンの図書館に掲げられていた意味を改めて考えさせられる。魂の救いを標ぼうする宗教と、書物が集められた図書館を「魂の病院」と呼び、知を尊ぶことの間を結びつけるのに、これ以上適した絵画はないように思えてくる。

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ハンス・ホルバインの「墓の中の死せるキリスト」

 15世紀にスイス初の大学が設立されたバーゼルは、文化・学芸の中心地でもある。宗教改革でプロテスタントの町になり、12~15世紀にかけて建築、改築を重ねたゴシック様式の大聖堂も、元はカトリックだが今は改革派プロテスタント。砂岩の赤い色が特徴的で、回廊からはライン川をのぞむこの街らしい眺めを楽しめる。市庁舎も同様の赤い砂岩で14~16世紀の建物。壁面のフレスコ画や彫刻は重厚で独特の雰囲気を持っている。時間があれば現地の解説付き見学ツアーもあり、案内が市庁舎内に掲示されている。トラムで街の中心、マルクト広場で降りれば目の前だ。

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バーゼル市庁舎

 バーゼルはフランスやドイツと国境を接する街。駅にはスイス国鉄だけでなくフランス国鉄も同居する。だが街はドイツ語圏だから、雰囲気はどちらかといえばドイツに近い。チューリッヒ方面に向かう列車はドイツ語アナウンスが最初に、ジュネーブ方面に向かうと、途中でフランス語アナウンスが最初にと入れ替わり、列車に乗っていても言語圏をまたいでいるのが分かる面白さは、スイスならではだ。

(軍司弘子)

次回はフランスの国立図書館へ。