ソウルではペットもPCR検査

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ソウル西大門区の保健所でPCR検査を待つ人たち(筆者撮影)

 韓国の北朝鮮研究専門のシンクタンクからフェローに応募しないかと誘われた。新型コロナウイルスで仕事も減り、朝鮮半島ウオッチが仕事だから、現地にいた方が良いのではと思い、この誘いに乗った。応募したところ採用され、70歳を前に、思い切って韓国へ転居することにした。

 韓国では「腹よりもへその方が大きい」ということわざがある。本末転倒という意味だ。韓国行きの航空券は片道で約2万5千円だった。現在、韓国へ行くにはビザとコロナの陰性証明書が必要だ。PCR検査をして陰性証明書を得るのに3万円近くかかり、飛行機代よりも高かった。

 安い値段で検査をやっているところもあるが、そういうところは公式の証明書を出してくれないところが多かった。まさに「腹よりへその方が大きい」という好例だ。

 現在、東京―ソウル間では羽田―金浦便はなく、韓国の航空会社による1日2便の成田―仁川便しかない。

 ようやく着いた仁川空港では何重ものチェックがあった。第1関門では、陰性証明書を提出して「PCR陰性確認書提出確認書」をもらわねばならない。「確認書」を出した「確認書」というのも、何となく屋上屋のような感じだ。「提出確認書」を受け取ると、体温を計られた。36度台の平熱であった。

 この後で、乗客は韓国人と外国人に分けられる。外国人の方へ行くと「検疫」のチェックだ。

 順番を待って窓口に座ると若者が「韓国語分かりますか?」と聞いてくる。「ハイ」と答えると相手も少し安心した感じだ。軍服の上から防護服を着ているが、透けて「陸軍」の文字が見える。韓国は徴兵制の国だが、いかつい軍人の感じはない。おそらく外国語のできる軍に服務中の大学生ではないか。

 ここでは2週間の隔離の場所の確認や連絡方法、健康状態のチェックが行われ、隔離先に電話をして事実関係の確認もした。さらに隔離期間中に使うアプリを携帯電話にダウンロードする。隔離中は1日に2回、体温を計り、健康状態に異常がないか保健所に報告しなければならない。

 だが、筆者は携帯電話のパスワードを完全に忘れており、「APPストア」からアプリがダウンロードできない。担当の彼は、仕方なく「次の係でダウンロードしてもらってください」という。

 もう一度、別の担当者のところを行くが、アプリのダウンロードはできず「検疫確認書」をもらってようやく出入国管理の窓口へ。

 ここは通常の入国時と変わらず、右手と左手の人差し指の指紋を採られ、旅券の顔と比べるために眼鏡とマスクを一時外させられた。そして預けた荷物を受け取って外へ出ようとするが、よく考えるとまだ、健康状態を報告するアプリをダウンロードしていない。カートを押して外へ出ようとすると最後の関門がまだあった。

 ここで大学生から入隊したような若者に「アプリをダウンロードする際に求められるパスワードを思い出せないんだよ。別送の荷物の中にある手帳には書いてあるんだけどね」と言うと、最初は新たにパスワードを作ろうと2人で筆者の携帯相手にあれこれやるがうまくいかない。

 最後は、彼が筆者の携帯電話を相手に15分ほど懸命の格闘を続け、遂に、ダウンロードに成功した。ご丁寧にも日本語のアプリをダウンロードしてくれた。

 「新しいパスワードつくったのなら教えてよ」と言うと「それはうまくいかなかったので、自分のパスワードでやったらできました。あなたのパスワードは使っていません」と言われた。

 仁川空港の軍人はパスワードを忘れたおっさんにも実に親切だ。

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自己隔離者に渡されるキットの中身(筆者撮影)

 空港から隔離先へ向かおうとするが、次のゲートでは翌日にPCR検査をするよう言われ、行くべき保健所を紹介される。バスなどの公共交通機関かタクシーか選択しろと言われた。筆者はタクシーに乗ったが、仁川からソウル市内の隔離先までは7万ウォン(約6360円)。

 翌日は旧正月の日だったが、朝の9時半頃に保健所から電話があり、公共交通機関を使わずに歩いて来るように指示された。旧正月でも午前9時から午後1時までやっているという。遠いが歩けない距離ではない。午前10時半ごろに保健所に行くと、旧正月だというのに既に20から30人の列ができていた。海外から到着した人もいるが、多くは韓国人だ。

 列の最後にいた若者に「PCR検査の列ですか?」と聞くと「そう、コロナです」と教えてくれたので並ぶ。少しすると筆者の後ろに10人くらいが並んでいる。ところが前の若者は、その前の男性に「整理番号がいるの?」と聞くと、男性は「前で番号取らないと」と言う。筆者も慌てて、番号札を取りに行くが、筆者の前にいた若者は、実に礼儀正しく、元いた場所に戻らず、列の最後に行くではないか。ここで、筆者が元いた場所に行くわけにいかず、彼の後ろに並んだ。僕は「韓国も変わったなあ。昔なら絶対に、元いた所に戻るのに、最後に行くなんて」と思う。

 ようやく順番が来て、健康状態などを聞かれるが、横にいる若者は「ちょっと体の調子が悪く、咳が出て…」などと相談している。このPCR検査は無料なので、健康に変調を感じた人はみんな来ているのだ。さらに次のコーナーでは医師に体調を聞かれ、そこで試験管を持たされてまた別のプレハブの部屋へ。そこで口と鼻の両方に綿棒を突っ込まれてようやく終了。

 保健所では「キット」をもらったが、マスクと2種類の消毒液、ゴミ袋が入っていた。隔離期間中のゴミはこのゴミ袋に入れ、さらにそれを普通のゴミ袋に入れて出すのだという。

 以前は自己隔離の人にはコメやインスタントラーメンなどが配布されたが、今は財政難でなくなったという。

 保健所からの帰り道では、別のPCR検査所もあった。市民が受けたいときにPCR検査を受けることができるというのは感染拡大防止に役立つだろう。

 そんなことを考えていると、もっと面白いニュースを発見した。ソウル市は2月8日、犬や猫のペットにもPCR検査をすると発表した。ただ、むやみにPCR検査をやるのではなく、発熱や目鼻からの分泌物の増加など感染の症状が出た時に限るという。そして2月15日に初めてペットの猫の陽性が出て隔離された。この猫の飼い主もコロナに感染していた。

 日本では市民がPCR検査を受けるのも難しいのに、ソウルではペットも検査を受けているのだ。

ジャーナリスト 平井 久志

 

(KyodoWeekly3月1日号から転載)