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ウクライナ戦争で高まるエネルギー安全保障議論 問題提起する映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』

映画『原発を止めた裁判長』ポスター
映画『原発を止めた裁判長』ポスター

 ウクライナ戦争でエネルギー安全保障問題がクローズアップされるなか、日本政府は2011年3月11日の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故後の原発政策を大きく転換し、廃炉が決まった原発の建て替えを推進し、運転期間延長も認める方針だ。

 そんな状況下、私たちが原発について考える大きなヒントを与えてくれる映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』(日本映画/92分/小原浩靖・監督/配給:Kプロジェクト・ENTER the DEE)が来年1月に戻って来る。

 2023年1月4日から17日まで「シモキタ・エキマエ・シネマK2」(東京都世田谷区北沢2-21-22 lounge 2F)で上映される。これまでに全国23館で公開された。

 初日の1月4日(火)から10日(火)まで上映後にトークイベントが開催される。上映開始は正午前後だが、正確な時間は劇場サイトで確認をしてほしいという。ちなみに劇場の電話はない。

 1月4日のゲストは、福井地方裁判所元裁判長の樋口英明(ひぐち・ひであき)さんとピースボートの畠山澄子(はたけやま・すみこ)さん。5日は同じく樋口氏。6日はブロードキャスターのピーター・バラカンさん。7日はジャーナリストの青木美希(あおき・みき)さん。8日は登場人物で二本松営農ソーラー農場長の塚田晴(つかだ・はる)さん。

樋口英明
樋口英明氏

 9日は大学生を中心とした団体「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子(のうじょう・ももこ)さん。10日はこの映画のプロデューサーの弁護士・河合弘之(かわい・ひろゆき)さん。いずれの日も監督の小原浩靖(おばら・ひろやす)さんが登壇する。

 映画は前半で、——原発問題はとかく「玄人」すなわち科学技術の専門家によるものだと思われがちだが、実は「素人」の常識こそが真の理解を生む――と静かに主張。

 原発推進派の「玄人」たちが挙げる科学データの数々を「常識」によって覆していく。専門的データが「素人」にも分かるように解説され、次々に問題が明らかになるが、「これは違うじゃないか!」といった高ぶりは微塵も感じさせない冷静さがある。

 その中で、裁判官の職業倫理とは何かを考え、文系が主流の裁判官たちが原発推進派の理系の専門的主張にいかに絡めとられているのかを明らかにし、さらには原子力規制員会は「国策である原発推進の一端を担う組織」ではないかと問いかけていく。

 後半では、大地にしっかりと足をつけて自然と共生している農家たちが、いかに放射能汚染に苦しめられてきたのか、あるいはそういった経験を踏まえて現在、太陽光発電に取り組んでいるのか、その様子が彼らの声とともに現場から報告される。

 原発は地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(CO2)の排出を減らす環境に優しい「クリーンエネルギー」であるとの主張に対しては、原発こそが「一番深刻な環境問題」になりうるとして河合弘之は「地球、日本のために闘う」とした。

 映画は2014年の一つの判決から始まる。そして、関西電力大飯原発の運転停止命令を下した樋口英明・福井地裁裁判長は、定年退官を機に日本の全原発に共通する危険性を社会に広める活動を始めた。それは、日本で頻発する地震に原発が耐えられないことを指摘する、誰もが理解できる“樋口理論”として知られるようになる。

 日本中の原発差し止め訴訟の先頭に立つ弁護士・河合弘之は、“樋口理論”をもって新たな裁判を開始した。“逆襲”弁護士・河合と元裁判長・樋口が挑む訴訟の行方はいかに!

 一方、福島では放射能汚染によって廃業した農業者・近藤恵(こんどう・けい)が農地で太陽光発電をするソーラーシェアリングに農業復活の道を見出す。

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 近藤は“反骨”の環境学者・飯田哲也(いいだ・てつなり)の協力を得て、東京ドームの面積を超える営農型太陽光発電を始動させる。福島で太陽光発電農業を営む人たちは口々に言う「原発をとめるために!」と。脱原発への確かな理論と不屈の魂。

 企画は河合弘之・小原浩靖・飯田哲也。製作は河合弘之・小原浩靖。監督・脚本も小原浩靖。音楽は吉野裕司。エンドロールとともに流れる主題歌は、山形県酒田市出身の上々颱風の白崎映美(しらさき・えみ)さんが歌う「素速き戦士」。

 白崎さんは、東日本大震災を経て“東北さいい事来ーい!”と、バンド「白崎映美&東北6県ろーるショー!!」、そして、地元酒田市にある東北最後の「グランドキャバレー白ばら」を盛り上げようと結成した「白崎映美&白ばらボーイズ」などで活躍中。

 小原監督によると、この映画はまず今年9月に東京・東中野で公開された。上映予定期間は最初2週間くらいだったが、好評につき、4週間に延長された。観客動員数は1600人超だったという。
 このほど、第77回毎日映画コンクール・ドキュメンタリー映画部門賞にノミネートされた。受賞作発表は来年1月下旬に予定されている。

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