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「東京ドキュメンタリー映画祭2022」を12月10日から開催 作り手の真摯(しんし)な姿勢が目立つ今年のプログラム

東京ドキュメンタリー映画祭2022チラシ

 「東京ドキュメンタリー映画祭2022」が12月10日(土)から23日(金)まで新宿K’s cinemaで開催されることになった。5回目となる今年も「長編」、「短編」、「人類学・民族映像」の各コンペティション部門の作品のほか、暗黒舞踏などの「特別上映」、さらに独自の文化が色濃く残るパプアニューギニア関連の作品が「特集」として上映される。

 現代社会ならではの生きづらさや先の大戦の傷あと、地域の暮らしや家族との葛藤などを粘り強く見つめた、作り手の真摯な姿勢が目立つ今年のプログラム。記録性や真実性をベースに、それぞれの“物語”へと飛躍するドキュメンタリー映像の魅力や奥深さを分かち合う貴重な2週間となる。

 料金は、税込み1,500円均一。ただし小・中・シニアは同1,000円。鑑賞3日前の午前0時から上映時間の30分前まで新宿K’s cinemaの公式サイトで購入が可能。各回入れ替え・全席指定席。1回券同1,300円と3回券同3,300円の特別鑑賞券は窓口で指定席券との引き換えとなる。 詳細は公式サイト で。

〇長編

 『ペーパー・シティ』(2021年/80分/エイドリアン・フランシス監督)は、1945年3月の東京大空襲の生存者たちの証言の記録映像にとどまらず、彼ら彼女らの思いが、2015年の安保法制への反対運動につながる様を描いている。下町の呉服屋の2代目が、空襲と家族の記憶を振り返る短編『遺言』(2022年/28分/清水亮司監督)が併映される。

 『標的』(2021年/99分/西嶋真司監督)は、圧力をかけられながらも、立ち上がる朝日新聞記者・植村隆と市民たちの姿を通し、日本の「負の歴史」の深淵に迫る力作。植村は1991年8月、元慰安婦だった女性の証言をスクープ。それから23年後、記事は植村の捏造だとするバッシングが右派の論客から始まる。その背景には慰安婦問題を歴史から消し去ろうとする国家の思惑があったことを描き出す。

 『そしてイスラの土となる~日系キューバ移民の記録』(2021年/80分/鈴木伊織監督)では、戦時中の強制収容やキューバ革命などを乗り越えた「最後の日系キューバ移民一世」といわれた島津三一郎や日系二世らが、異郷の島(イスラ)から故郷日本への思い出を語る。

 『アダミアニ 祈りの谷』(2021年/120分/竹岡寛俊監督)は、チェチェン紛争で「テロリストの巣窟」との汚名を着せられたジョージア東部・パンキン渓谷で暮らす、キストと呼ばれるイスラム教徒の人々を3年間にわたり記録した作品。

 『霧が晴れるとき』(2020年/80分/小川典監督)—―第二次大戦中、死者6,000人を超える激戦でありながら、戦後は忘れ去られたアリューシャン列島アッツ島・キスカ島の戦い。残骸の眠る現地訪問や、奇跡的な交流を通して見えてきた“終わらない物語”を、10年の歳月をかけて描いている。

 『オーディナリー・ライフ』(2021年/75分/魏鵬鶴=ギ・ホウカク=監督)では、視覚障害者の男性2人の音楽ユニット「ズーウェイとアジェ」の、それぞれのパートナーとの普通の生活を追っている。盲導犬アランにも注目。

 『マエルストロム』(2022年/79分/山岡瑞子監督)が描くのは、ニューヨークの美大を卒業したばかりの“私”が障害を負い、大混乱(マエルストロム)の日々の中で、それまでとは全く変わった日常を始める姿で、いわば魂のセルフ・ポートレート。

 『DAYS』(2022年/120分/藤本純矢、未紀監督)は、摂食障害をテーマに作品を撮り続ける監督と、21才で摂食障害に悩むミキさんの2人が5日間をミキさんの部屋で過ごし、摂食障害の現実を知ってもらうため、彼女に起きるできごとを記録。

 『ポラン』(2022年/74分/中村洸太監督)は、2021年2月に惜しまれつつ閉店した東京都・大泉学園の古書店「ポラン」の開店からの軌跡、刻々と迫る閉店までの日々と店舗の解体、閉店後の店主たちの足取りをカメラで追っている。

 『カービング・ザ・ディバイン 仏師』(2021年/98分/関勇二郎監督)は、仏師・関侊雲のもとに弟子入りを志願してやって来た者たちに、その心構えと技術を伝えていく、知られざる仏師の世界を切りとったドキュメンタリー。

 『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』(2022年/107分/三好大輔、川内有緒監督)では、アート鑑賞が趣味の全盲の白鳥健二さんがいつの間にか編み出した「自由な会話によるアート鑑賞」という独自の方法ーそのアートを巡り旅をする白鳥さんを描く。

〇短編

 サケを捕獲する“先住権”を求めて立ち上がるアイヌの人々を描く『サーモンピープル~アイヌ“先住権”を求めて~』(2021年/24分/寺田和弘監督)。震災と原発事故から11年、苦労を振り返りながらも前を向く住民の声を集めた『福島からのメッセージ ―それでも、私たちはここで生きていく―』(2022年/28分/蟹江節子監督)。自衛隊ミサイル基地建設に反対しながらも、(ハルサー)農民として独自の生き方を模索する石垣島の青年たちを追った『島がミサイルになるのか 若きハルサーたちの唄』(2021年/60分/湯本雅典監督)。

 77才になってなお日本への帰国を望む、未認定の中国残留日本人孤児を追う『望郷――未認定中国残留孤児 郜鳳琴の物語』(2022年/29分/劉聡=リュウ・ソウ=監督)。韓国の従軍慰安婦問題に触発され、尊厳の回復を求めて声を上げながら、今なお心の傷を抱えるバングラデシュ独立戦争の性被害者の女性たちを撮った『待ちのぞむ』(2021年/60分/セ・アル・マムン監督)。

 甲子園を目指し全国から集まった北海道小樽・北照高校の野球部員たちを待ち受ける運命を描く『北照ドキュメンタリー2021【誇り】』(2022年/36分/森田浩行監督)。わずか4人で「走れメロス」を題材にした劇を上演する島根の分校の演劇部員が起こした奇跡の物語『走れ!走れ走れメロス』(2022年/53分/折口慎一郎監督)。

 鳥取県の山奥にひとり暮らす老夫の生活や人生の歩みを記録した「現時点プロジェクト」シリーズの新作『私はおぼえている:竹部輝夫さんと中津の記憶』(2021年/37分/波田野州平監督)。精神障がいを持つ人々のグループホームでの日々や、施設反対運動の実像に迫る『不安の正体 精神障害者グループホームと地域』(2021年/65分/飯田基晴監督)。

 セネガルのスラム街で生きる女性たちの自立を促す活動の記録『ディンデフェロ』(2021年/14分/ヤン・イェックレ監督)。愛媛県今治市で、ご近所の“ともしび”としてお好み焼きを焼き続ける女主人を描く『NNNドキュメント‘22 ともしび~今治大浜一丁目17年の記録』(2022年/46分/寺尾隆監督)。ガーナ人の両親を持ち日本で育った馬瓜エブリンが、バスケットボール女子日本代表として銀メダルを獲得するまでの13年間に密着した『メ~テレドキュメント 東京の日の丸』(2021年/60分/村瀬史憲、服部倫子監督)。

 限られた命と向き合う時に人は何を思うのか―余命わずかである父の肉声を子に残すためカメラを回し始めた親子の対話『松の樹の下で—Under the Pine Tree』(2021年/20分/国本隆史監督)。母の末期ガンを宣告された監督が相談相手として生み出したAIの友人「ジェームズ」との会話『火曜日のジェームズ』(2021年/24分/ディーター・デズワルデ監督)。死と生の間を行き来する中国の献体コーディネーターの仕事を追った『会者定離』(2021年/46分/李雄=リ・ユウ=監督)。

 寂れゆく故郷を盛り上げようと、アマチュアプロレス集団を立ちあげたサムソン宮本の奮闘と闘病を描く『無理しない ケガしない 明日も仕事~新根室プロレス物語~』(2021年/45分/湊寛、堀威監督)。一家離散の原因となった父親の末期ガンを機に、監督が家族の再生を試みる『暴力親父 余命4ヵ月 憎しみと愛の狭間で。』(2021年/60分/清藤裕貴監督)。

 彫刻作品が並ぶ公園で遊ぶある夏の日を記録した『ある日のアルテ』(2022年/14分/吉田孝行監督)。歌を失いかけた音楽家・太田美帆の日常を見つめる『DAY』(2022年/17分/井手内創監督)。チベットの伝統芸能を生徒たちに伝えようと奮闘する若き教師を描く『弦胡琴の呼び声』(2022年/35分/曹也傾=ソウ・ヤケイ=監督)。仙台のバンド「yumbo」から生まれる音と生活の風景を撮った『ロッツ・オブ・バーズ』(2021年/45分/福原悠介監督)。

〇人類学・民族映像

 近畿や北陸を旅してまわる伊勢大神楽―100年続くという旅の1年を記録した『それでも獅子は旅を続ける~山本源太夫社中 伊勢大神楽日誌~』(2022年/89分/神野知恵、山中由里子監督)。

 スイス人作家の視点から沖縄の芸能を伝承する人々の誇りや生き様、葛藤を描いている『ウムイ「芸能の村」』(2022年/75分/ダニエル・ロペス監督)。

 シチリア島において農民、漁民、カトリック教会が数カ月かけて準備し、古代から続く伝統が情熱的に表現される祝祭の数々を、ナレーションやインタビューを排したダイレクト・シネマの手法で見つめる『ミステリーズ』(2022年/71分/ダニエル・グレコ、マウロ・マゲリ監督)。文様に注目してバリ島の祭儀を記録した短編『チュプックーイカット文様に宿る魔除けの力』(2017年/12分/TAMA MON22―多摩美術大学文様研究プロジェクト 根津裕子監督)。

 エチオピアで弦楽器マシンコを弾き語るアズマリが、即興的な場をたちあげる様をワンショットで撮った『吟遊詩人―声の饗宴』(2022年/17分/川瀬慈監督)。タンザニアの村で、けいれんする病気になった子どもを呪術の力で治癒する『呪術師の治療』(2022年/25分/松永由佳監督)。ウズベキスタンのアニミズム的な交霊術と、イスラムが融合した儀礼を記録する『交霊とイスラーム:バフシの伝えるユーラシアの遺習』(2022年/37分/和崎聖日、アドハム・アシーロフ監督)。

〇特別上映

 国内外で活躍する舞踏家、木村由が限界集落の記憶と寄り添う舞いが楽しめる『藤原― Fujiwara』(2022年/21分/細田磨臣監督)。土方巽の妻であった舞踏家を映した『元藤舞踏記録映画』(2022年/75分/猪鼻秀一監督)。

 戦時中に行われた朝鮮人の同化政策、戦禍に巻き込まれた在日朝鮮人の生活権利を巡る闘争、外国人技能実習生の環境や難民に対する入管の対応などに問題の根を伸ばして描く『ワタシタチハニンゲンダ!』(2022年/114分/高賛侑=コウ・チャニュウ=監督)。

 1986年に北海道の屈斜路湖で75年ぶりに行われたキタキツネのイオマンテ(カムイとよばれる魂を神々のもとに送り帰す祭り)を記録した『チロンヌプ カムイ イオマンテ』(2021年(撮影:1986年)/105分/北村皆雄監督)。

 戦前・戦中・戦後にわたりルーペを覗き続けたカメラマン瀬川順一を、「奈緒ちゃん」でコンビを組んだ監督の伊勢真一が記録したドキュメンタリー『ルーペーカメラマン瀬川順一の眼―』(1996年/90分/伊勢真一監督)。

〇特集

 ニューギニア島のトロブリアンド諸島におけるクラ貿易をカメラに収めた『クラ ―西太平洋の遠洋航海者』(1971年/67分/市岡康子監督/プロデューサー牛山純一)。同島のカルリ族が着飾って歌合戦をし、歌手にやけどを刻む儀礼を撮った『ギサロ』(1987年/50分/市岡康子監督)。

 ニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領の原生林が広がる盆地バリエム渓谷は1954年に至るまで外部との接触がなく、石器時代の暮らしが続いていたーその山地で部族戦争を勝ち抜いてきたダニ族のウクメリック酋長の一代記を、本人の語りと再現ドキュメンタリーの手法で描く『裸族最後の大酋長-石器時代から現代までを生きた男』(1982年/67分/市岡康子監督)。

 パプアニューギニアの山岳地帯で暮らすフリ族の族長であるケパンガが、生まれ育った原生林を歩き、森からの声を聞き取り、それをユーモラスかつ哲学的に語り、祖先からの警鐘を現代人に伝える『森からの声』(2017年/85分/マルク・ドジエ、リュック・マレスコ監督)。