「ヤマハ」といえば「YAMAHA」のロゴイメージが強い人が多いだろう。最もよく目にするのがピアノやドラム、トランペットなどの楽器で、オーディオ好きにはスピーカーやアンプといった音響機器、あるいはゴルフクラブやバイク好きにはヤマハから独立したヤマハ発動機のオートバイになじみがある人もいるだろう。
ヤマハ(浜松市)は2月7日、主力の楽器事業を強化するため、ギター製造・販売の米Cordoba Music Group (コルドバ社、カリフォルニア州)を買収し、世界シェアを拡大する方針を明らかにした。同日付でヤマハ子会社の米ヤマハ・ギター・グループ(YGG)がコルドバ社の株式を100%取得、ヤマハの孫会社化した。
クラシックギターは米シェア1位
ヤマハは2022年4月、3カ年の中期経営計画「Make Waves 2.0」を発表。その中でギター事業の強化を打ち出し、年10%成長を目標に設定した。コルドバ社のグループ入りは世界のギター市場におけるヤマハギターのブランド認知拡大が狙いの一つだ。
コルドバ社はアコースティックギター、エレキギター、ウクレレなどを手がけ、特にクラシックギターでは米国でシェア1位だという。また、コルドバグループはポール・マッカートニーやエリック・クラプトンなど世界的なミュージシャンが愛用したとされるエレキギターなどの「Guild(ギルド)」ブランドを持っており、米国での人気が高い。
拡大する世界市場
浜松市内で記者会見したヤマハ楽器事業本部長の山浦敦執行役は「ギターは世界的に市場が大きく、ヤマハとして成長ポテンシャルが高い」と買収の狙いを説明した。ヤマハの楽器事業でギターは「電子楽器」「ピアノ」「管弦打楽器」に次ぐ4番目の売上高だというが、山浦氏は「(ギターは)楽器事業の中で伸ばせる領域だ」と語った。
同席したギター事業部の阿部征治・事業部長によると、コロナ禍で在宅時間が増え、初めてギターを手にした初心者や若い頃に弾いていた世代が再び弾くようになり、ギターの売り上げがアップしたというが「それ以前からも世界的に市場全体が年2%程度成長しており、その中でヤマハのギター事業は、今後2桁成長のペースでシェア伸長を狙う」と強調した。
開発力を強化
ヤマハはコルドバ社買収の狙いを3点挙げた。①ギターの商品ポートフォリオを補完②クラシックギターの開発力を強化③米国に製造拠点を確保。①と②については、コルドバ社はクラシックギターに強みがあり、ヤマハも手がけているもののシェアは低いことから商品ラインアップを拡充。また、コルドバが持つ技術や知見をヤマハ製ギターに生かすことでギターの開発力を高めることも狙いだという。
ヤマハは初級者向けとしての認知度は高いが、中期経営計画で「中高級価格帯へのシフト」を打ち出しており、「奏者の信頼を獲得するギターで支持を拡大」する取り組みを通じて実現を図る。③に関してはコルドバ社をグループ化したことで、米国にあるコルドバの製造施設の生産能力を拡大しながら将来、ヤマハ製のギター製造も検討するとした。
ギター事業を将来の柱に
「Cordoba」や「Guild」のブランド名は継続するというが、将来的には米国工場でヤマハブランドの高級カスタムギター(限定生産の高級ギター)を生産し、米国市場に向けたブランド発進力を強化していきたい考えだ。ヤマハは2014年にギター周辺機器などの企画開発・製造・販売を手がける米「Line 6」(現YGG)を子会社化し米国に拠点を得た。買収で、さらに製造拠点が加わった形だ。
今回、クラシックギターに強い「Cordoba」と、アコースティックギター、エレキギター双方で人気が高い「Guild」をグループ内に持ち、両ブランドの知見を生かしたヤマハギターで世界最大マーケットの米国で販売拡大を図る。現在、ヤマハグループのギターは、世界シェア10%程度だというが、今後売り上げを拡大し、経営計画で宣言した「ギター事業を将来の柱に育てる」考えだ。