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1920年代パリに開花したモダンガールたちの活躍に注目! 「マリー・ローランサンとモード」開催中

マリー・ローランサン 《羽根飾りの帽子の女、あるいはティリア、あるいはタニア》 1924年 油彩・キャンヴァス マリー・ローランサン美術館 ⓒMusee Marie Laurencin
マリー・ローランサン 《羽根飾りの帽子の女、あるいはティリア、あるいはタニア》 1924年 油彩・キャンヴァス マリー・ローランサン美術館 ⓒMusee Marie Laurencin

 画家のマリー・ローランサンとファッション・デザイナーのココ・シャネル。2人の活躍を軸にして、モダンとクラシックが微妙に融合する第1次大戦から第2次大戦までの間のパリの芸術界を俯瞰(ふかん)する展覧会が東京・渋谷で開催中だ。

 女性的な美をひたすら追求したローランサンと、男性服の素材やスポーツウエアを女性服に取り入れたシャネル。美術とファッションの境界を交差するように生きた2人の活躍。そして、ポール・ポワレ、ジャン・コクトー、マン・レイ、美しいバイアスカットを駆使したマドレーヌ・ビオネといった時代を彩った人々との関係にも触れられている。

マリー・ローランサン 《鳩と花》 1935年頃 油彩・キャンヴァス (タペストリーの下絵) マリー・ローランサン美術館 ⓒMusee Marie Laurencin
マリー・ローランサン 《鳩と花》 1935年頃 油彩・キャンヴァス (タペストリーの下絵) マリー・ローランサン美術館 ⓒMusee Marie Laurencin

 同展は3つの章とエピローグから成る。

 ◆「第1章 狂騒の時代のパリ」——ローランサンとシャネル。奇しくも1883年という同じ年に生まれ、美術とファッションという異なる分野に身を置きながら、互いに独自のスタイルを貫いた2人は、まさに1920年代のパリを象徴する存在だった。
 社交界の優美な女性たちの「女性性」を引き出す独特な色彩の肖像画で瞬く間に人気画家に駆け上がったローランサン。一方、シャネルの服をまといマン・レイに撮影されることはひとつのステータス・シンボルとなっていった。
 そうした写真の多くは後に「VOGUE(ヴォーグ)」などの雑誌に掲載され、オートクチュールに身を包んだ女性たちは、時代のファッションを作り上げていった。

マリー・ローランサン 《ヴァランティーヌ・テシエの肖像》 1933年 油彩・キャンヴァス ポーラ美術館
マリー・ローランサン 《ヴァランティーヌ・テシエの肖像》 1933年 油彩・キャンヴァス ポーラ美術館

 ◆「第2章 越境するアート」——1920年代のパリを語るうえで欠かせないキーワードが「越境」。スペインからピカソ、アメリカからはマン・レイなど、世界中から国境を越えて、多くの若者がパリに集まり、才能を開花させた。故国の伝統とパリの国際性。そのふたつが見事に融合した時、独自でありながらも普遍性を備えた、彼らだけの表現が可能に。
 そしてジャンルも超えた。美術、音楽、文学、そしてファッションなど、別々の発展を遂げてきた表現が、新たな総合的芸術を生み出すために、垣根を越えて手を取り合った。代表的なもののひとつがセルゲイ・ディアギレフ率いるロシア・バレエ「バレエ・リュス」だった。フランスを中心に活躍したこのバレエ団にローランサンとシャネルはその活動に参加することで表現の幅を広げ、新たな人脈を形成する糸口をつかんだ。
 ブルジョワ芸術であった舞台の世界に、ピカソなど前衛芸術家の才能を引き寄せたことはバレエ・リュスの成果のひとつだが、その陰にはジャン・コクトーなど、前衛と社交界をつなぐ重要な存在があった。

セシル・ビートン 《お気に入りのドレスでポーズをとるローランサン》 1928年頃 マリー・ローランサン美術館 ⓒMusee Marie Laurencin
セシル・ビートン 《お気に入りのドレスでポーズをとるローランサン》 1928年頃 マリー・ローランサン美術館 ⓒMusee Marie Laurencin

 ◆「第3章 モダンガールの変遷」——1920年代、新しい女性たち“モダンガール”が登場する。第1次世界大戦を契機とした女性の社会進出、都市に花開いた大衆文化、消費文化を背景に、短髪のヘアスタイル、ストレートなシルエットのドレスをまとった女性が街を闊歩(かっぽ)した。それは世界的な現象となる。1920年代に入ると、ポール・ポワレの優雅なドレスよりもより活動的、実用的な服装が打ち出され、なかでもココ・シャネルのリトル・ブラック・ドレスは時代を代表するスタイルになった。ジャン・コクトーは「ポワレが去り、シャネルが来る」という言葉を残したぐらいだ。他のデザイナーたちも競ってモダン・ファッションに取り組み、女性服を大きく変革した。
 世界恐慌やファシズム台頭による不安な情勢から、1930年代には復古調のロングドレスや装飾が復活する。パリのモード界でも、シュールレアリスムに影響された装飾デザインのエルザ・スキャパレッリが時代の寵児(ちょうじ)となり、ファッション雑誌はマン・レイなど気鋭の写真家を起用して斬新な表現や躍動感ある女性像を提示した。モダンガールもまた時代の息吹を吸って、どんどん変化していった。

マドレーヌ・ヴィオネ 《イブニング・ドレス》 1938年 島根県立石見美術館
マドレーヌ・ヴィオネ 《イブニング・ドレス》 1938年 島根県立石見美術館

 ◆「エピローグ ローランサンの色彩」——1983年から30年以上にわたりシャネルのデザイナーを務めたカール・ラガーフェルド(1933-2019)。ローランサンからインスピレーションを受けたラガーフェルドは、その巧妙で透明感のある色彩を自身のデザインに取り入れた。ココ・シャネルのクリエーティブな遺産を受け継いだ現代のファッションに、女性性を追求したローランサンの世界観をよみがえらせた。
 「私が好きなのは初期の頃のココ・シャネルだ。反抗的で気まぐれで、温水器が爆発して見事な髪が焦げたからと、オペラ観劇の初日に髪を切った彼女。愉快なときの茶目っ気。彼女の知性が大好きだ。私は自分のコレクションをデザインするとき、彼女のことを思い浮かべる」——カール・ラガーフェルド。

ガブリエル・シャネル 《デイ・ドレス》 1927年頃 神戸ファッション美術館
ガブリエル・シャネル 《デイ・ドレス》 1927年頃 神戸ファッション美術館
ガブリエル・シャネル 《帽子》 1910年代 神戸ファッション美術館
ガブリエル・シャネル 《帽子》 1910年代 神戸ファッション美術館

 「マリー・ローランサンとモード」はBunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F)で4月9日(日)まで開かれている。3月7日(火)は休館。開館時間は午前10時から午後6時(入館は午後5時半まで)。毎週金・土曜日は午後9時まで(入館は午後8時半まで)。入館料は一般1900円、大学・高校生1000円、中学・小学生700円、未就学児は無料。問い合わせは050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。
 なお、4月16日(日)~6月11日(日)には京都市京セラ美術館で巡回展示の予定。