社会

「しながわ地域貢献活動展」で30団体が活動発表と交流 初の試みとしてオンライン配信で「活動を行うナカの人」を紹介

ph1 ライブ配信
「モノプロしながわ」によるオンライン配信のようす

 「すごいですね。こんなにたくさんの方々に来ていただけるとは思いませんでした。もちろん品川区も情宣しましたけれど、各団体の方々が来場者をお呼びしたいということで動いてくださった結果ですね。大成功だと思って喜んでいます」

 そう語るのは、東京・品川区の地域振興部 地域活動課 協働推進係長 北原尚子氏だ。2月25日、大井町駅前のきゅりあん(品川区立総合区民会館)7階イベントホールで開催されていたのは「しながわ地域貢献活動展」。品川区が、しながわ地域貢献活動展実行委員会と協働で開催したイベントだ。

品川区 地域振興部 地域活動課 協働推進係長 北原尚子氏
品川区 地域振興部 地域活動課 協働推進係長 北原尚子氏

 品川区内で活動するNPO法人やボランティア団体など30団体が参加した今回のイベント。開催の目的を、実行委員長の佐藤聖美さん(NPO法人IWC国際市民の会)はこう話す。

 「品川区では、さまざまな団体が主にボランティアで地域に貢献する活動や、品川区民のサポートをする活動を行っています。それを区民の皆さんに知っていただき、地域の方々と交流を図るのが最大の目的です。また、日頃は団体同士が一緒になって活動することはほとんどなく、他の団体がどういうことをやっているかを知る機会もありません。団体同士がこの場で会って新たな何かが生まれることも願って、このイベントを開催しました」

「しながわ地域貢献活動展」実行委員長の佐藤聖美さん(写真左)
「しながわ地域貢献活動展」実行委員長の佐藤聖美さん(写真左)

 14m×40mの横長の会場に、30団体が所狭しとブースを出展。その活動内容はまさに多種多様だ。「難民を助ける会」「美容の力で高齢者を笑顔に」「地域区民のための手づくり工房」「子ども支援活動をデジタル化で楽しくする」「花壇づくりを通じて地域のコミュニティと自然環境の保全」「地域および学校における食育活動」「企業OBの経験と知識を活かして人づくり」「プログラミングで子どもたちを笑顔に!」「子ども食堂」「もったいない塾」「外反母趾研究会」「アレルギーに悩む人に情報提供」「子育てにもリテラシーを!」・・・など、実にバラエティに富んでいる。
 会場内では、ブースで情報提供するだけでなく、チャリティー弁当やお菓子の販売、さまざまなワークショップや、子どものためのゲームなども開催され、お祭りのようなにぎやかさだ。

会場のようす
会場のようす

 出展団体の一つ、一般社団法人 子ども若者応援ネットワーク品川の代表・中塚史行さんは、イベントに参加した狙いをこう語る。
 「私たちは、ホームと感じられる場所がない子どもや若者のための居場所づくりをする活動を行っていますが、この催しは自分たちの活動を区民の方にお知らせできたり報告できたりするとてもいい機会です。このイベントには第2回から参加していて、地域で活動している方たちと同窓会のように会えるということも大きいです。ここでのつながりが現在の活動に役立っていますし、活動が広がったのはイベントにずっと参加してきたからともいえます。今回は3年ぶりの対面の開催ですごくうれしいです」

「子ども若者応援ネットワーク品川」の中塚史行さん
「子ども若者応援ネットワーク品川」の中塚史行さん
「しながわ地域貢献活動展」参加30団体
「しながわ地域貢献活動展」参加30団体

 「人」にフォーカスして活動や団体を深掘り

 このイベントがスタートしたのは平成21年。当初は「品川区消費生活展」との合同開催で名称も違ったが、平成31年度に地域貢献活動にフォーカスして第1回「しながわ地域貢献活動展」として単独開催されることになった。ところがコロナ禍で3度延期されてしまったので、今回が実質的に第1回目の開催になるという。

 今回、初めての試みとして行われたのが、『もっと知りたい!活動を行うナカの人』と題する、会場からのオンライン配信だ。出展団体である「一般社団法人モノづくり×プログラミングfor Shinagawa(通称・モノプロしながわ)」と立正大学の学生による協働で、各出展団体の中から8組をゲストに迎えてインタビュー。その模様をYouTubeでライブ配信したのだ。

「モノプロしながわ」の杉本将輝さん
「モノプロしながわ」の杉本将輝さん

 オンライン配信を行った狙いはどこにあるのか、モノプロしながわの代表・杉本将輝さんにお尋ねした。
 「品川区には、一般の区民に対してだったり、なかなか支援が行き届かない方だったり、あるいは親子世代や老人世代に向けた、ボランティア団体やNPO法人がたくさんあります。そういう団体を紹介するのに、通り一遍のやり方だとつまらなくなりがちです。地域貢献活動をする『人』、つまり個人にフォーカスした発信をしていけば、より共感を得られるのではないか、深掘りしていけばきっとその団体の個性が出るよねということで、2人の大学生MCと若いスタッフがいろいろと知恵を絞ってゲストトークを考えてくれました」

 ライブ配信で、交代でMCを務めたのは、立正大学4年生の増田優花さんと佐藤愛奈さん。ボランティアでの参加だという。初々しさやたどたどしさを感じさせる話し方ながら、どちらもゲストに鋭い質問をぶつけ、ゲストの個性をしっかり浮き彫りにしていく。

 例えば、日本で生活する外国人に日本の文化や習慣・マナー・日本語を教えているNPO法人IWC国際市民の会の坂本英樹さんからは、「商社勤めをしていたときの海外赴任地が人生を変えた」「外国ではうかつに“I’m sorry.”と言わない方がいい」などの言葉を引き出す。

 また、日本人と英語で国際交流するNPO法人ELCA東京のブライアンさんは、「カナダ人の自分にとってイギリス英語はいつまでも慣れない。標準語と大阪弁のような違いがある」と明かす。

 さらに、もったいない精神で手作りを楽しむ「もったいない塾」の宮木丸美さんは「仲間の95%を失う経験をしたが、仲間はまた新たに作ればいい」と、壮絶な体験を力強く語っている。

 そのほかのゲストの話もどれも興味深く、それぞれの団体の紹介はしっかり押さえつつも、活動する「人」を掘り下げていったのは大成功だ。

 こちらも、どんな「人」がMCを担当しているのか知りたくなり、MCの一人、増田優花さんに、少しお話を伺った。

ボランティアでMCを務めた立正大学4年生の増田優花さん
ボランティアでMCを務めた立正大学4年生の増田優花さん
 ——MCを担当することになったきっかけを教えて下さい。

増田 「まちなか防災ボランティア」という活動に参加した際に、モノプロしながわの杉本さんにお誘いをいただきました。

 ——MCを担当することになって大変だったことは?

増田 11月後半から月に2回程度ミーティングしたんですが、インタビューの際の質問を考えるのが一番大変でした。どんなことを聞いたらゲストのことを掘り下げられるのかをメンバー全員で考えたんですが、一から絞り出す作業が大変でした。

 ——ボードも使ってゲストに切り込んでいましたね。

増田 あれもみんなで意見を出し合って、こういうフリップを使ったら面白そうだよねと、「私のピンチとチャンス」「私の1週間」「私の人生グラフ(人生の浮き沈み)」「私の喜怒哀楽キーワード」と4種類用意して、ゲストの方に書き込んでもらいました。

 ——このイベントに参加してみていかがでしたか?

増田 NPOって、自分とはすごく遠い世界の方々だと思っていたんですが、お話してみると、釣りだったり旅行だったりといろんな趣味をお持ちの方がいて、自分にも通じ合える身近な存在なんだなと感じました。

 ——ボランティア活動をやられているのは、大学の勉強と関係があるんですか?

増田 専攻は文学部社会学科で、地域社会学という授業もあるので関係はありますが、私は中学の時からボランティアに興味があって、大学でも機会があったらやりたいなと思って参加しました。地域の人と関わるのが好きで、以前にボランティア活動をやった時も楽しかった思い出があるんです。

 品川区民と立正大学の地域連携

 実は、増田さんが通う立正大学は品川区にもキャンパスがあり、今回のイベントにも「立正大学 研究推進・地域連携センター」としてブースを出展している。同センター総務部 研究推進・地域連携課長の石田恭啓さんに出展の意図を伺った。

立正大学のブース。写真左が研究推進・地域連携課長の石田恭啓さん
立正大学のブース。写真左が研究推進・地域連携課長の石田恭啓さん

 「当センターには研究推進と地域連携という二つの役割があり、さまざまな研究を社会に還元するような取り組みを行っています。研究推進は、各先生方の研究を推進するだけでなく、それをより大型にしたり共同研究に発展させたり、あるいは産学連携につなげたり。そこから地域連携にもつながります。研究と地域連携は一見、離れているように見えますが、実は親和性が高いんです。
 品川区にはたくさんのNPO団体があり、さまざまな社会課題に取り組んでいらっしゃいますので、われわれの学生だったり教員だったりと近い、親和性のある団体さんがあれば一緒に活動できるんじゃないかということで参加することにしました」

 イベントのライブ配信を企画したモノプロしながわの杉本さんは、本職の傍ら立正大学の産学連携コーディネーターも務められているという。

 「産学連携というか、何でも組み合わせちゃえというのが僕の役割。増田さんに最初に声をかけた『まちなか防災』も、戸越銀座商店街の防災の取り組みに立正大生を組み込みました。このイベントもそうですが、商店街も年齢層が高めです。その中に学生さんがいると華やかになるし助けになる。増田さんが商店街で活動した時も『うちも立正大生だったんだよ。頑張ってね!』と温かい声をかけられたりしました。立正大生は比較的素朴な学生が多いので、自信を持って地域貢献活動に参加していっていいと思いますし、品川区の皆様にも立正大学の存在を再認識していただきたい」

 ボランティア活動や地域貢献活動に関心がある若者は、たぶん昔より増えているに違いない。だが、初めてのことに挑戦するのはやはり勇気がいるもの。もしかしたら、自分には大したことはできないと思っている若者も多いのかもしれない。だが、杉本さんのお話を伺っていて、若者が参加すれば地域の人たちはすごく喜ぶのだということを再確認できた。増田さんに、ボランティア活動や地域貢献活動に関心がある若者へのメッセージを、とお願いしたらこんな答えが返ってきた。

 「はじめの一歩を踏み出すのは、すごく緊張すると思うんですが、実際にやってみると楽しいことも結構多いので、気軽に挑戦してほしいなと思います」