おでかけ

「深呼吸、ときどきパース旅」<上> ~オーストラリア・【風景編】 鮮やかな「青」に出合う

フリーマントルにあるオブジェ「レインボー・シー・コンテナ」

最近、深呼吸をしていますか?

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、約3年間、日本のみならず世界各国・地域で生活上のマスク着用が日常化した。マスク越しの会話に慣れてしまい、呼吸が浅くなってはいないだろうか。

しかし、新型コロナの状況も落ち着きをみせたことから、世界的には「脱」マスクも浸透。脱マスク化は単に物理的なマスクという意味だけではなく、心のマスクも外すことにつながるかもしれない。感染対策を十分に心がけながら、ときどき世界の旅に出るのも一案だ。今回は、オーストラリア西部、西オーストラリア州の州都・パースとその周辺の【風景編】と【食の魅力編】を紹介する。そこには、身も心も解放され、深呼吸できる場所が必ず見つかるだろう。

 

 温暖な気候

オーストラリア・パースを訪れた方は、きっと納得いただけるだろうが、とにかく抜けるような空の青さに驚いてしまう。

世界中を旅したジャーナリスト・兼高かおるさんは「1969年この地を訪れたとき、一番印象的だったのは空の青さでした。取材スタッフが空を見上げて歓声を上げて、『空ってこんなに青くて、こんなに澄んでいて、こんなに清らかなんですか!』」(『私の好きな世界の街』新潮社)と記している。

さらに、パースについて兼高さんは「リタイアしたあと、もっとも住みたい町」として紹介もしたという。街の中心にはスワン川が流れ、パース郊外はインド洋に面し、美しく雄大な自然が身近に感じられるからだろうか。

西オーストラリア州は人口約266万人、うち約78%が州都パースに集中している。パースは日本との時差がマイナス1時間。地中海性気候で1年中温暖な過ごしやすく、日本と同じように四季がある。南半球なので、日本と季節は逆になり、12月から翌2月ごろに夏を、6月~8月ごろに冬を迎える。

今回訪れたのは3月中旬。季節は夏から秋に移る時期で、日中は気温30度近くに上がるが、湿気はあまりなく過ごしやすい。夕方には、薄手のウインドブレーカーがほしいと感じるほど、涼しい風が吹いてくる。

海辺に置かれた田辺武さんの作品
海辺に置かれた田辺武さんの作品

 海辺の彫刻展

パース市街から車で約30分のビーチは、この時期「海辺の彫刻展」に様変わりする。コテスロービーチで約20年前から開かれている「スカルプチャー・バイ・ザ・シー」で、日本人アーティストの田辺武さんの作品を含め計約70点が浜辺のあちこちに置かれている。パース市民や観光客が、強い日差しの中、海、青い空、白い砂浜の風景に溶け込んだ作品を鑑賞していた。

アートディレクターを務めるハンドレー・ディビッドさんは「このイベントには毎年、約20万人が訪れている。多くの方々に楽しんでいただき、アート作品を通じ、よりよい世界の構築を目指している」と語った。

「アイ ラブ フリオ」のモニュメント(フリオはフリーマントルの略)
フリーマントル・マーケットで、生鮮食料品を扱う店頭

 ローカルなおみやげ

スカルプチャー・バイ・ザ・シーから車でまた移動し、スワン川の河口に位置するフリーマントルを訪れた。19世紀前半に、イギリスからの入植者によって開拓された港町で、コロニアル風な建物が建ち並ぶ。歴史的な建造物とカフェ、レストランなどが併存し、訪問者を飽きさせない魅力がある街だ。

ここには、フリーマントル・マーケットがあり、地元の食品をはじめ、衣類、ワイン、お菓子、手作りせっけんなどを扱う店が密集し活気がある。多くの観光客らがローカルなおみやげを探そうと、市場内を行き交っていた。フリーマントルにはパース駅から鉄道で行くこともできる。

水上飛行機から見下ろすパース市街
愛らしい顔のクオッカ

 世界一幸せな動物

「世界一幸せな動物」クオッカに出合うため、フリーマントルからフェリーでロットネスト島に渡った。今回は、スワン川から飛び立つ水上飛行機で島に入った。

ロットネスト島はパースの沖合約18キロに位置し、島全体が「A級自然保護指定の国立公園」だ。一般車両の乗り入れは禁止で、島内移動は自転車が目立つ。風力発電の電気を利用する電動自動車も見られ、「エコアイランド」として徹底している。

そんなエコな島のあちこちに有袋動物クオッカが歩き回っている。クオッカはもともと、夜行性で、青空の下、日差しが強い日中は動きが鈍くなっているが、木陰などで観察することができた。

クオッカの顔は口角が上がっていてほほえんでいるように見えることから、「世界一幸せな動物」と呼ばれている。人懐っこい性格で、下からのアングルで撮影すると、その笑顔を撮れることが多い。ただ、エサをあげたり、抱き上げたりすることは禁止されているので、注意が必要だ。

西オーストラリア州政府の観光担当者は「ロットネスト島は素晴らしい場所です。クオッカに会いに、豊かな自然に出合うために、ぜひ一度は訪れてください」と話した。

陸地側から撮影したバッセルトン桟橋

 絶景の桟橋

ワインの産地で知られるパースの南部、マーガレットリバーに向かう途中、一度見たら忘れることができない、バッセルトン桟橋に立ち寄った。南半球で最も長い1.8キロの木製で、沖に向かって延びている。その上を、観光用の汽車が走る。もちろん、歩いて桟橋の先まで行くこともできる。じりじり照りつける日差しの中、ゆっくりと走る汽車の中から、海が360度見渡すことができ、非日常的な気分を味わえる。

また、陸地側から眺める桟橋の風景は、一枚の水彩画のようだ。ため息をつきたくなるほど、見るものを魅了する。

キングスパークからパース市街を眺める
毎年9月に開催される「キングスパーク・フェスティバル」(Botanic Gardens & Parks Authority提供)

約3000種類

パース市内から無料バスで行けるキングスパーク。ここはパース市民の憩いの場だけではなく、多くの観光客も訪れる。パースの街並みやスワン川が見渡せ、パースの街の美しさを実感できる場所だ。

ここでは、西オーストラリア州固有のワイルドフラワーを観賞することができる。ワイルドフラワーとは、自生する野生の花の総称で、その種類は約1万2000種といわれる。西オーストラリア州でしかみられない固有種も多い。キングスパークでは毎年9月「ワイルドフラワー・フィスティバル」が開催され、約3000種類の花が園内を彩る。

パーク内では、植物観察を通してリラックスすることを目的にした体験ツアー(有料)などもあり、パースで森林浴を行い、心も体もリフレッシュできるだろう。

以前は日本からパースまで全日空(ANA)の直行便があったが、新型コロナウイルス禍の影響などで、一時中断している。今回はキャセイパシフィック航空を使い、香港乗り換えでパースに入った。

全日空は今年1月、成田―パースの直行便について「ウインターダイヤから週3往復を運航する」と発表。年内に直行便が再開される見通しとなり、日本からパースにこれまで以上に訪問しやすくなる。

パースの魅力的な「青」に出合いに、そこで、深く呼吸をしてみてはいかがだろうか。

(「深呼吸、ときどきパース旅」【食の魅力編】に続く)