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「深呼吸、ときどきパース旅」<下> ~オーストラリア・【食の魅力編】 ならではの「味」に出合う

フレーザー・ギャロップ・ワイナリー

最近、深呼吸をしていますか?
「深呼吸、ときどきパース旅」<上> ~オーストラリア・【風景編】では、“パースブルー”と呼べる、鮮やかな「青」に出合うことができる風景の数々を紹介した。

今回は、西オーストラリア州の州都パースとその周辺の青空の下で育まれる肉や魚、野菜などの食材を使った、この地ならではの「味」をお伝えしたい。
オーストラリアの自然が作り出す「食」の魅力に出合うことで、身も心も解放され、思わず深呼吸をしてしまうだろう。

フリーマントルのレストラン店内

 ■オーストラリア料理とは?

結論から言えば「これぞ、オーストラリア料理の代表」を一言で表現するのは難しい。それは、多民族・多文化国家のオーストラリアの歴史を少し振り返ると、理解していただけるだろう。

オーストラリアの先住民は、アボリジナルの人々だ。約6万年前から、オーストラリアに居住していたといわれ、アボリジナルの人々は「ブッシュ・タッカー」という、オーストラリアに生息する動植物の狩猟採取食をしながら暮らしていた。

ブッシュ・タッカーは、昆虫、植物、カンガルー、エミュー、マカダミアナッツなどを食材とする。今では、オーストラリアの有名シェフも料理に用いてきており、レストランで食べられるところも増えてきた。

オーストラリアは1788年、イギリスの植民地となった(1901年にオーストラリア連邦成立)。19世紀半ばにオーストラリア東部で金鉱山が発見され、これがきっかけで、イギリス、アイルランド、イタリアといった欧州や中国などのアジアから多くの移民が押し寄せてきた。移民たちは独自の食文化をはじめとしたカルチャーをオーストラリアに持ち込み、それが現在、社会の随所に残っている。

建国から約120年と歴史が浅く、多民族・多文化国家だからこそ、これぞ「オーストラリア料理」という料理は育っていないのかもしれないが、その多様性こそが、オーストラリアの魅力そのものだ。

タイのカレーや山盛りのご飯
ロットネス島内のレストランで提供されたコース料理

 ■進化系のアジア料理

今回のプレスツアーでは、アジアの味に出合うことが多かった。しかも、アジア以外の人たちの口に合うような比較的マイルドな味わいに仕上げられた“進化系アジアフード”と呼べるような味だった。

パース近郊のフリーマントルにある、ワンダーズホテル内のレストラン「エミリーテイラー」では、ココナツ味が利いたタイ風カレーに山盛りの白いコメが出てきた。開放されたレストラン内に海風が吹き込み、マイルドなカレーの辛さにご飯が進む。

また、クオッカが生息しているロットネスト島の「ロンタラ・レストラン」は、海辺を眺めることができる場所に立地。ここでも、海を身近に感じながら、アジア料理のコースが出てきた。ロットネスト島は、オーストラリアでもトップクラスの観光地で、家族連れやカップルが次々と提供される料理をおいしそうに味わっていた。

「食は文化である」という言葉通り、進化系アジア料理の日常生活への浸透は、多民族国家オーストラリアを象徴しているだろう。

ブルマン・バンカーベイ・リゾートのレストランでの一品
鍋に入ったチリマッスル(ムール貝のトマト煮)=左奥

 ■牛の数の方が多い!?

オーストラリアと言えば、日本の食卓でおなじみの「オージービーフ」だろう。運動量が多く、エサも牧草であるため、肉質は赤身が多くなるという特徴を持つ。日本の牛肉で多くみられるサシが入った軟らかい肉ではないが、個人的にはオージービーフの方が肉本来の味を飽きることなく、楽しめると感じる。

オーストラリアの国土面積は約769万平方キロメートル、日本の約20倍の広さだ。パースからマーガレットリバーまでの移動は車で途中の休憩を入れて約3時間半かかった。この間、車窓からの眺めは基本的には牧草地帯。牛たちが牧草をはんでいたり、横たわっていたりと風景が大きく変わらず、この土地の大きさを実感する。

広大な農地でのびのび育てられている牛は全土で約2900万頭に上り、オーストラリアの人口約2300万人を超え「人より牛の方が多い」という国だ。

パースからマーガレットリバーに到着し「ブルマン・バンカーベイ・リゾート」に宿泊した。このホテル内のレストランで、ディナーのメインに肉料理が出された。ナイフを入れると、ほろほろと肉が離れ、ワイン産地として知られているマーガレットリバー産の赤ワインとのマリアージュは最高だった。

一方、シーフードも負けていない。西オーストラリア州の地元フードともいえるのが「チリマッスル」。ムール貝のトマト煮で、辛さがオーダーできる。【風景編】で紹介したバッセルトン桟橋の近くにある「シェルター・ブリューワリー」で、店内醸造のビールとともに手の汚れを気にしないでムール貝を懸命に食べた。貝のダシを含んだトマト煮の汁をパンに付けて「チリマッスル」を2度、楽しめた。

「フレーザー・ギャップ・ワイナリー」ツアーを案内してくれたダリオ・シロッティさん(右)
「フレーザー・ギャップ・ワイナリー」の赤、白ワイン

 ■“孤立”したワイン産地

マーガレットリバーはパースから南に約270キロメートルに位置する。ワイン好きな方なら「ピーン」と来るだろうが、ここはオーストラリアを代表するワイン産地の一つだ。広大な自然の中、200以上のワイナリーが点在。新型コロナウイルス禍で中止されていた、ワイナリーの見学ツアーも徐々に復活しており、ワイン愛好者にとっては一度は訪れたい場所だ。

1年を通して温暖な気候で、マーガレットリバーではカベルネ・ソービニヨン、メルローなどのフランス・ボルドー系品種と、白ブドウのシャルドネが主に栽培されている。十分な日光を浴び、どのブドウからも芳醇(ほうじゅん)な果実味と力強さを兼ね備えたワインが生み出されているという。

大手百貨店関係者は「残念ながら、日本国内へのマーガレットリバー産ワインの輸入量は多くないが、そのポテンシャルを考えると、今後は増える可能性がある」と指摘する。

マーガレットリバーのワイナリー関係者らも、この地域を説明する際に「isolation」(孤立)という言葉を使っていたのが印象的だった。ワインの一大産地でありながら、世界的に流通量は多くなく、世界から孤立した場所であるといった現状を指した言葉だろう。ただ、この「isolation」(孤立)という言葉は、世界がこの地の味にまだまだ気が付いていないというマーガレットリバーの生産者の自信の裏返しなのかもしれない。

今回、ワイナリーツアーで訪れた「フレーザー・ギャップ・ワイナリー」の販売担当のダリオ・シロッティさんは「今年のシャルドネは当たり年で、とてもおいしい。この地で育ったワインを日本の愛好家のみなさんにもっと飲んでいただけるよう、さまざまな取り組みをしていきたい」と強調した。

アルコールがダメな方でもワイナリーの中にあるレストランで、丁寧に作られたランチを楽しむことができる。広大なブドウ畑を眺めながら、味もさることながら、風景と空気が最大のごちそうになるだろう。

「オリオ・ベッロ」の店内で味見ができるオリーブオイル
お土産に買ったジャラ・ハニー入りのセット

 ■自然の恵みを

マーガレットリバーでは、オリーブオイルにも出合える。「OLIO BELLO(オリオ・ベッロ)」という店で、さまざまなオリーブオイルを店員の説明を聞きながらテイスティングしながら買い求めることができる。

多くの種類のオリーブオイルとオリーブ、ディップ、せっけん、ローション、そしてカフェまでが併設。日本と比べ価格は高いものが多いが、それもそのはず、店内の外には、広大なオリーブ畑が広がり、新鮮で安心な商品を提供しているからだ。

オリーブオイルといっても、さまざまな味があり、テイスティングしながら自分のお気に入りの一品にきっと出合えるはずだ。

マーガレットリバーから、パース市内に戻った。今回のプレスツアーで、お土産に買おうとしていたのがジャラ・ハニーだ。西オーストラリア州だけに育つ、ジャラの木から生まれる希少価値が高いハチミツ。【風景編】で紹介したパース市民の憩いの場所、キングスパーク内の施設で、3本セットで55オーストラリアドル(日本円で約4950円)と高かったが、「ジャラ・ハニーは毎年収穫できるわけではない」という話を聞き、思い切った。

旅行の楽しみの一つは、「そこでしか買えないものと出合うこと」が挙げられるだろう。

西オーストラリア「ならではの味」のいくつかを紹介した。少しでも興味をもてた「食」があったら、ぜひ現地で味わっていただきたい。その土地で、ならではの味を堪能すれば、自然と深呼吸したくなるだろう。

(取材協力;オーストラリア政府観光局、西オーストラリア州政府観光局)