カルチャー

受け継がれる伝統と技  炎で咲かせる菊の花、一庫炭の窯出しが始まる

 炭を使う機会はなかなかない。でも火を起こした炭の様子を想像するだけで、なんとなく心が落ち着いて温かくなる。兵庫県川西市の黒川地区の里山では、特産の「一庫炭(菊炭)」の窯出しが始まった。

一庫炭(菊炭)の窯出しの様子
一庫炭(菊炭)の窯出しの様子

 黒川地区では、炭の原材料となる良質のクヌギが入手しやすいため、室町時代ごろから炭焼きが盛んに行われてきた。もっとも電気やガスの普及に加え、山間部の宅地開発などで原材料も入手しにくくなり衰退。川西市によると、市内では現在、炭焼農家の今西学さんが唯一この炭作りを守り続けているという。

 原木を窯に運び込む「窯入れ」から始まる炭焼きの作業。長さ1メートル、大きいもので直径10センチほどの原木をすき間なく立てて並べ、天井部と原木のすき間には雑木をぎっしり詰めて火入れ。約800℃まで上がる窯の中で8時間かけて火を回し、3日間焼き続けるのだそうだ。

 窯の出入り口と煙突部を塞ぎ、密閉状態のまま4~5昼夜おき、火が消えて人が入れる温度まで窯の中の温度が下がれば「窯出し」へ。

 焼き上がった炭の断面が菊の花びらの模様に見えることから、「菊炭」とも呼ばれている一庫炭。火付きと火持ちがよく、立ち消えしにくい、煙が立たず静かに燃えるという特徴があり、茶席などの高級炭として重用されているという。

一庫炭(菊炭)の火付けの様子
一庫炭(菊炭)の火付けの様子