NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。2月25日に放送された第八回「招かれざる者」では、右大臣・藤原兼家(段田安則)が倒れる一大事が発生。風雲急を告げたこの回、にわかにキーパーソンとして浮上してきたのが、主人公まひろ(吉高由里子)の母の仇(あだ)である藤原道長(柄本佑)の兄・藤原道兼(玉置玲央)だ。
父・兼家が倒れた後、内裏の書庫で書物の整理をするまひろの父・為時(岸谷五朗)の前に現れる道兼。仕事を手伝う道兼の腕にある痛々しいあざが、為時の目に留まる。理由を尋ねる為時に、「父にやられた」と打ち明け、「小さい時からかわいがられた覚えはない。いつも、殴られたり、蹴られたりしておった」とこぼす道兼。そして、「どこへ行っても、私は嫌われる。蔵人の務めとして、帝のおそばに上がっても、右大臣の子、というだけで遠ざけられる」と続ける。
この後、道兼は突如、為時の家を訪れ、酒を酌み交わす。さらに道兼は、書類を届けた際、花山天皇(本郷奏多)から敬遠されるが、為時が前述の話を伝えて取りなすと、興味を持った花山天皇は、呼び戻した道兼の腕のあざを確認し、「地獄に落ちるな、右大臣は」と吐き捨てる。
初見では、道兼の意外な一面を見た気がして同情したものの、改めてこの回を見直してみると、すべては兼家のたくらみとしか思えなくなってきた。兼家が見舞った時、眠っていた兼家が目を開けたことも、それを匂わせる。
こうして、物語のカギを握ることになった道兼だが、果たしてその胸中はいかなるものか。書庫で為時に父との関係を打ち明けた際の表情や言葉は真に迫っており、全てがうそとは思えなかった。少なからず本音も混じっていたような気もするが、同時に道兼自身が「父上のためならいくらでも泥をかぶる。ためらいはない」(第六回)と語っていたことも思い出される。となると、やはりすべては道兼自身も承知の上での計略だったのかもしれない。
その一方で、第六回で兼家は道長に、「道隆とお前が、表の道を行くには、泥をかぶるやつがおらねばならぬ。道兼は、そのための道具だと考えよ」と語っていた。この兼家との考えのずれが、道兼の今後にどんな影響を及ぼすのか。
また、この回のクライマックスといえるのが、為時の家を訪ねた道兼が、まひろと対峙(たいじ)する場面だ。道兼が母の仇であると知るまひろに対して、それに気づかぬまま言葉を交わす道兼との緊迫したやり取りは、思わず息をのんだ。もし、道兼がその真実に気づいたら、一体どんな行動に出るのだろうか。(道兼は既に真実を知っており、芝居だった可能性もある…?)
これらを考え合わせると、道兼のこれからの行動は、確実にまひろと道長の運命を左右するに違いない。事件の成り行きと共に、道兼の動向からも目が離せない。
(井上健一)