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新たな視点で紡ぐチャイコフスキーの交響曲 【コラム 音楽の森 柴田克彦】

 チャイコフスキーの交響曲といえば、ロシア的な濃厚さと感傷性を伴った熱く激しい表現がイメージされる。だが、それでは本質をつかみ損なうのではないか? まるでそう言わんばかりの録音がリリースされた。ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団による交響曲第4番である。

 ジョナサン・ノット 指揮 チャイコフスキー:交響曲第4番 オクタヴィア OVCL-00838 3850円

ジョナサン・ノット 指揮
チャイコフスキー:交響曲第4番
オクタヴィア OVCL-00838 3850円

 1962年イギリス生まれのノットは、現在務めるスイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督のほか、ヨーロッパのさまざまなポストを歴任し、ベルリン・フィルやウィーン・フィルにも客演している世界的な名指揮者。2014年には東京交響楽団の音楽監督に就任した。

 既に10年を超えた同コンビは、緻密かつ生気みなぎる演奏でファンの高い支持を集めている。ただし彼らは、主に後期ロマン派を中心とするドイツ系の作品に力を注ぎ、チャイコフスキーはほとんど取り上げてこなかった。

 本ディスクは、23年7月の「フェスタサマーミューザKAWASAKI」におけるライブ録音。コンビ10年にしてチャイコフスキーの交響曲に初挑戦した当公演では、前半に第3番、後半に第4番が演奏された。

 このコンサートは会場で耳にしている。その際も、ノットの音楽性からみて、民族色濃厚な忘我の熱演にならないことは十分に予想できた。しかし最初はあまりにスマートで粘り気のないチャイコフスキーだと感じた。特に第3番は、民族色などまるでなく、端整な音楽がサラサラと流れていく。よく言えば純音楽的で都会的な第3番。それはある種の驚きでもあった。

 後半の第4番も同様の方向性だったが、楽曲自体の完成度や濃度が大幅にアップする上に、大半が西欧滞在の折に書かれたこともあってか、ノットのアプローチが俄然(がぜん)ハマる。やはりスマートに構築された、それでいて密度の濃い演奏が、曲の西欧交響曲的な美点を明らかにし、第3番からわずか3年の間に、チャイコフスキーは何故かくも進化したのだろうか?と改めて考えさせられた。

 そして今回CDで聴き直すと、その特質がより鮮明に伝わってくる。第1楽章は普段隠れがちな弦楽器の動きなどがみずみずしく響き、第2楽章は、感傷的な歌ではなく、誠心な音のあやと化す。第3楽章は異例の切迫感をたたえながら疾走し、第4楽章はマーラーにさえ通じる白熱の器楽音楽が展開される。しかも、ただのクールな表現とは違って、普遍的な熱気や高揚感は十分に有している。

 これは、ロシア情趣に富んだ激情的なチャイコフスキー演奏ではなく、新たな視点で紡がれた革新的音楽である。前半の第3番も先にCDリリースされており、そちらと合わせたノット&東響の録音が、このロシアの人気作曲家の音楽を見直させてくれるのは間違いない。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 16からの転載】

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柴田 克彦(しばた・かつひこ)/音楽ライター、評論家。雑誌、コンサート・プログラム、CDブックレットなどへの寄稿のほか、講演や講座も受け持つ。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる!吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。