人生に迷いながらソープ嬢として働く若い女性・加那と、彼女に介護されることになった認知症の祖母・紀江の交流を明るくポップなタッチで描いたユニークな映画『うぉっしゅ』が絶賛公開中だ。
本作で、加那を演じる若手注目株の中尾有伽と共に、紀江役でダブル主演を務めるのが、9年ぶりの映画主演となる研ナオコ。作詞家・放送作家として活躍した永六輔を祖父に持ち、認知症の祖母と接した自身の経験を基に脚本を書き上げた岡﨑育之介監督と共に、ユニークな作品の舞台裏を明かしてくれた。

ーまずは、岡﨑監督が研さんに認知症の祖母・紀江役をオファーした理由を教えてください。
岡﨑 「介護が題材」と聞くと、普通はちょっと重い社会派の作品をイメージされると思います。でも、だからこそ誰もが笑って見られるコメディー映画にしたかったんです。そこから、「誰かを洗うこと」という点が共通する介護とソープ嬢の組み合わせを思いつき、自分が認知症の祖母と接した体験を踏まえて脚本を書き上げました。その作風にぴったりな、誰もがファニーなイメージを持つ方は誰だろう…?と考えた結果、「研ナオコさんしかいない!」と。
研 たくさんの俳優の中から声を掛けていただき、ありがたかったです。監督が、これから活躍していこうとする意欲に溢れた方であることも、お引き受けした大きな理由です。そういう人を見ると、応援したくなっちゃうんです。だから、「私で役に立てるなら、ぜひ」と。
岡﨑 しかも、クラウドファンディングにも協力してくださって。
研 お金払って映画に出てますから(笑)。それくらい、応援したいと思ったんです。ただ、1つだけ条件を出しました。それは、「妥協しないでください」ということ。若い監督が私に遠慮し、ワンテイクだけ撮って「OKです」ではなく、自分の作品なんだから、きちんと納得できるように撮ってほしくて。監督が永六輔さんの孫だと知ったのは、撮影が始まった後です。
岡﨑 恐れ多くも、そんなありがたいお言葉をいただいた以上は、それに120%応えないと失礼に当たるので、僕はとにかく自分のできることをまっすぐやろうと覚悟を決めました。
ー岡﨑監督の狙い通り、見事なはまり役でしたが、研さんはどのようにお芝居に取り組みましたか。
研 現場で監督の指示通りに演じただけです。「ここは、ボーっとテレビを見ていてください」と言われたら、その通り見ている…といった感じで。
岡﨑 お芝居について僕の方からは、研さんが実生活で経験ありそうな出来事に即してお伝えしました。例えば、実家に帰ってきた加那から、「おばあちゃん、久しぶり」と声を掛けられたのに、認知症で孫だとわからない紀江さんが他人行儀な表情をして気まずくなるシーン。ここでは、研さんがテレビ局を歩いているとき、若いADさんが「研さん、ご無沙汰してます」とあいさつしてきたけど、研さんは相手のことを覚えていない。そういう経験はありませんか、と。
研 しょっちゅうです(笑)。
岡﨑 そんなとき、取りつくろうように答える「ご無沙汰してます」をやってください、とお願いしました。
ー一目で認知症だと伝わる見事なお芝居でしたが、認知症の人のビデオを見るなどの準備はしたのでしょうか。
研 役作りのようなことは一切しませんでした。そういうことをやると、そのまねになってしまいますから。
岡﨑 役作りって、基本的には足し算だと思うんです。医者の役なら医学、教師役なら学校についてリサーチして準備する。それに対して、認知症の役は、毎日、記憶がリセットされるので、引き算になる。その分、すごく難しい。だから、とにかくシーンごとに何も考えず、目の前にあることだけをフラットに受け止め、反応してくださいとお願いしました。その結果、本当に素晴らしいお芝居をしてくださいました。
研 主演女優賞を狙ってますから(笑)。
