環境に優しい農法や製造法を用いた食品や、環境に配慮した包装材を用いた加工食品を目にすることが非常に多くなった。持続可能なフードシステムの構築のための取り組みとしては、こうした技術的な面が目立ちがちではあるが、技術のみならず、より幅広いシステム上の変容が求められている。ただそこには、技術やシステムの開発や導入コストの問題のほかに、いやそれ以上に、考えなければならない多くの“トレードオフ”(相反)の問題がある。
従来の「健康的な食事」という考え方に加えて、近年、「持続可能な食事」という概念が普及しつつある。2019年にEAT‒Lancet委員会(非営利団体EATと複数の財団が医学誌ランセットとともに行った国際共同プロジェクト)が、「健康的な食事」と「持続可能な食料生産」の観点から食品群別の摂取目標を示したことは大きな注目を集めた。「持続可能な食料生産」の観点が加われば、望ましい食事パターンは、動物性食品の摂取を大きく減少させたものになる。これに対しては、低所得国の低栄養の問題を解決できないなど、栄養面を懸念する議論もなされている。
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は2019年のレポートの中で、「持続可能で健康的な食事」について、「個人の健康とウェルビーイングのすべての側面を向上させ、環境への負荷と影響が小さく、アクセスしやすく、手頃な価格であり、安全で公平で、そして文化的に受容できる食事パターン」と述べている。しかし、現実にはそれらの複数の要素が実現する食事パターンと、そのためのシステムを探っていく必要がある。
食品の安全性確保と環境負荷低減との間にも、一方が改善すれば一方が悪化するという〝トレードオフ〟が存在する。食品の包装材は環境負荷の原因になりうるが、それがなければ、食品の微生物汚染のリスクが高まる。そのため、食品安全性を確保しながら環境負荷を小さく抑えられるような包装方法や流通方法の確立が課題になる。また、食品製造の現場では食品廃棄削減への取り組みがなされる一方、衛生管理のため、製造ラインの洗浄に際してライン中に残った食材の廃棄が必要になることがある。こうした〝トレードオフ〟の中では、人々の健康保護を優先した対応がとられることになる。
フィンランド環境機構のカルヨネン博士は、2023年に発表した論文の中で、フードシステムの持続可能な方向への移行においては、多面性をもつ公正さに取り組むことの重要性を議論している。さまざまな〝トレードオフ〟が存在するなかで何を優先して進めていくべきか、さまざまな角度の公正さを検討し、「誰も取り残さない」仕組みを模索していくことが求められる。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.33からの転載】