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伝統料理の良さを見直す 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の源」

 おでんに入れたり、みそ味で煮たりと和風化が進み、西洋料理だったことを忘れそうになるのがロールキャベツだ。遠い先祖のフランス料理「シュー・ファルシ」の世界一を競う大会が11月、フランスで開催される。日本代表を選ぶ予選があると聞いてがぜん興味が湧き、見に行った。(写真はイメージ)

 シュー・ファルシはフランス語で「キャベツの詰め物」という意味。フランスでは葉が縮れ、煮崩れしにくく食感のよいサボイキャベツで肉を包み、キャベツの形にして煮込む。もとは中南部オーベルニュ地方の郷土料理で、17世紀には宮廷料理人が味や美しさを競い合ったという。

 現在はフランス全土どこの家庭でも、レストランでも作る。大会を主催するベルナルド社代表のミシェル・ベルナルドさんによると「ポトフの残りなど余り物を利用することも多く、家ごとに味付けも具も違う国民食」だそう。レストランではロールキャベツのような小型で出すが、家庭では大きく作り、ケーキのように切って分け合って食べる。

 ベルナルド社は、世界のミシュラン三つ星レストランの7割に食器が使用されている高級磁器メーカーだ。「シュー・ファルシを世界に広げ、各国のキャベツ料理に取り入れてもらう」のが開催の狙いだという。大会には世界中から料理人が集まり、昨年優勝したのはシンガポールからの出場者だった。

 なお、日本におけるロールキャベツの歴史も古い。調べた限り最初に紹介した料理書は、1888(明治21)年の「軽便西洋料理法指南」である。外国語学校教師仏人ブラン夫人から教わった調理法と序文にあるから、原型はシュー・ファルシかもしれない。が、煮込むソップ(スープ)を「塩、胡椒、醤油(しょうゆ)にて味を附け」とあり、すでに和風にアレンジされているのに驚いた。1912(明治45)年の「西洋料理書」には肉を包んでキャベツの形に戻し、オーブンで1時間煮込んでマデラソースまたはホワイトソースを添えるという、まさにシュー・ファルシのレシピが載っている。

 さて、予選に出場したファイナリストは6人。持ち時間は3時間30分、トリュフは使用禁止、完成時の重量1・2〜2キロというルール以外は何をしても自由で、ウサギと鴨を組み合わせた人、豚と貝を組み合わせた人もいた。各自が詰め物とソースに創意工夫し、切った時の断面もそれぞれ個性的で甲乙付け難かった。その中で1位に選ばれた佐合夏海葵(さあい・なみき)さんの詰め物は鶏肉が主体で、醤油をアクセントに使い、蒸すことでキャベツのおいしさを引き出したのがポイントだった。

 庶民的なシュー・ファルシを国際コンクールの主役にすることで、伝統的な料理のおいしさを見直し、大切にするきっかけを作るのも、大会の目的。とてもすてきな考えだと思う。和食で同じようなコンクールを開くとしたら、どの料理がテーマにふさわしいか考えあぐねた。いくら国民食でも、カレーやラーメンではないだろうから。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.13からの転載】