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群発地震トカラ列島に住民戻る 「人のつながり」再生めざす 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」

 夏の終わりまでの2カ月余りで、2千回以上の有感地震に見舞われたトカラ列島に、祭りや観光客が戻りつつある。

 鹿児島県トカラ列島近海の地震は、6月21日に発生して以来連日揺れ続け、7月には最大震度6弱を記録した。

 悪石島(人口89人)では、旧盆の最終日の97日に「ボゼ祭り」が例年通り行われ、地震による影響が心配されたが、定員いっぱいの50人の観光客が本州などから訪れる。

 異形の仮面神「ボゼ」が、祭りに集まった人たちから「先祖とともに紛れ込んだ悪霊を追い払」ってくれるという。同島の坂元勇自治会長(民宿あおば主人)は「トカラに元気が戻った、という姿を見てほしい」。

 トカラ列島の七つの有人島と五つの無人島からなる十島村では、104日に「島めぐりマラソン」(参加80人)や「島めぐりリレー」(同40人)も予定通り開催される。

 政府の地震調査委員会は8月中旬の会合で、トカラ列島近海で続く群発地震について、地震の発生回数や規模が縮小傾向にあるとの見解を示した。

 同調査委は74日に臨時会合を開き、議論を始めていた。トカラ列島付近では、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込み、過去にも地震が続く期間があった。それでも1週間〜10日程度で収束してきたが、今回はこの時点で2週間続いていた。

 この地域では、活動が落ち着いた数カ月後に再び活発化した例もあることから、今後23カ月はこうした状況が続く可能性があるとしている。

 悪石島の住民にとって、今回の「島外避難」は、2020年の台風による避難、21年の地震避難に続き3回目だった。

 坂元自治会長は言う。「地震の状況を見ながら、いつ避難するか、島に戻っても大丈夫か。判断が難しい。精神的な負担も小さくない。しかし、避難しても安心できる受け入れ環境を整備しておくことが大事だ」。今回は小宝島(人口67人)も合わせて延べ70人余りが避難した。

 鹿児島県には離島が多い。28島でつくる「かごしま島嶼(とうしょ)ファンド」がちょうど7月末に設立されたばかり。設立に先立って、群発地震が続くトカラ列島に対して「サポートチーム」が立ち上がり、具体的な支援の検討が進んでいる。

 同基金の立ち上げに参加した十島村の埜口裕之村議は、「高齢者や子どもたちも、不安のない避難の受け入れができるような、トカラ伝統の『人のつながり』を再生したい」と話す。南北160キロにわたり点在する七つの島をつなぐ船は、自宅にたどり着けないこともしばしばあったため「親戚のような家」が各島で助け合う風習があった。そんなコミュニティーを復活させる青写真を描きつつある。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.34からの転載】