はばたけラボ

【はばたけラボ 連載「弁当の日の卒業生」⑥】焼き魚にはまっています

 

 未来世代がはばたくために何ができるかを考えるプロジェクト「はばたけラボ」の新連載「弁当の日の卒業生」。「弁当の日」、その日は買い出しから片付けまで全部一人で。2001年に香川県の小学校で始まった食育活動は、約25年を経て全国に広がっています。その提唱者である竹下和男氏が「弁当の日」の卒業生の今をつづります。

▼焼き魚にはまっています

 「お久しぶりです」の声に、どこか成長を感じました。30歳を超えている彼はシステムエンジニアで、仕事が楽しくて仕方がないそうです。「今、少し話せる?」と問うと「アパートに向かって歩いている途中です。大丈夫です」と言ってくれました。

 彼が大学生の時に食育のイベントに参加してもらいました。料理はしているけれど、コンロが一つなのはずいぶん不便ですねと言いつつ、自炊生活を楽しんでいました。あの時からもう10年以上過ぎています。今は、平日は外食が多く、土日だけがIHも使える楽しい自炊生活のようです。

 ぼくは和食中心ですね。肉料理は野菜炒めに肉を入れる程度で、どちらかというと魚料理が好きです。煮魚も作りますが多いのは焼き魚です。いろんな魚を焼きます。もうサンマがスーパーに出ていますが、まだちょっとハシリで高価だから、もう少し値が下がるのを待っています。大学生のころは、米・レモン・野菜・クリが家から届いていたから自炊が多かったけれど、今は仕事が忙しいうえに、もうおじいちゃんが作らなくなったから、送ってもらっていません。常備菜を作ることもほとんどなくなっています。

 私たちの地元の「道の駅」も、この10年間で生産者が大きく様変わりしています。つまり高齢な方が野菜作りを引退するばかりで、次世代があまり育っていないということです。令和の米騒動の背景が、彼との会話でも感じられました。

 得意料理を問われても、何でも作っているし、材料があれば作れるから、「なし」かな。とにかく、あるもので作るから主にスーパーでメニューが決まっていきます。いま、彼女がいないけれど、彼女ができたときに食べさせたい料理というのなら「肉じゃが」かな。うーん。最初から「焼き魚」はないような気がするなー。

 「話に夢中になって、溝に落ち込んだりするなよ」と私が言うと「大丈夫です。道端によけて話をしていますから」と答えました。やっぱり彼は落ち着いていました。

 私は講演先からの電話でした。このあと、ホテルを出て向かいの食堂に入り、ホッケの「焼き魚定食」を注文し、彼の生活を想像しながらおいしくいただきました。

竹下和男(たけした・かずお)/1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。


 #はばたけラボは、日々のくらしを通じて未来世代のはばたきを応援するプロジェクトです。誰もが幸せな100年未来をともに創りあげるために、食をはじめとした「くらし」を見つめ直す機会や、くらしの中に夢中になれる楽しさ、ワクワク感を実感できる体験を提供します。そのために、パートナー企業であるキッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、雪印メグミルク、アートネイチャー、ヤンマーホールディングス、ハイセンスジャパン、ミキハウスとともにさまざまな活動を行っています。